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アンドレ・プレヴィンの録音 


○1970年4月、1971年11月

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番

ウラディミール・アシュケナージ(ピアノ独奏)
ロンドン交響楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英デッカ・スタジオ録音)

録音のせいもあると思いますが、ピアノの響きもオケの響きも、透明感があって重さを感じさせない軽い響きで、この響きはラフマニノフの物憂げなイメージ似合っているようにも思われますが、ちょっと演奏がムード音楽的に聴こえるところなきにしもあらず。ただし、演奏は素晴らしい出来です。アシュケナージのピアノは過度にセンチメンタルに陥ることなく・抑制が効いていて、ヴィルトゥオーゾ・コンチェルトとしての面白さもあり、とてもバランスが良いと思います。この演奏を聴くと第2番との性格の共通性がよく見えてくる感じがします。


○1971年11月

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番

ウラディミール・アシュケナージ(ピアノ独奏)
ロンドン交響楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英デッカ・スタジオ録音)

この曲の理想的な演奏のひとつだと思います。ともすればムード音楽的に甘ったるくなりそうな旋律を、プレヴィンはテンポ早めにサラリと処理して粘らせないところが良いのです。実に音楽的な演奏だと感心させられます。ロンドン響の響きは透明で軽やかで、プレヴィンの意図によく答えています。このプレヴィンのバックがあるので、アシュケナージの透明なタッチが生きています。ラフマニノフの音楽の持つ抒情性と歌謡性とメランコリーな要素がバランス良く味わいます。


〇1986年2月23日ライヴ−1

メンデルスゾーン:劇付随音楽「真夏の夜の夢」

エヴァ・リント(ソプラノ独唱)、クリスティン・カーンズ(アルト独唱)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

これは好演です。プレヴィンがウィーン・フィルの個性をよく生かした素敵な演奏です。響きが透明で、リズムが軽やかで、如何にもメルヒェンの世界に遊ぶような美しい演奏です。特に序曲が素晴らしい出来です。スケルツオは軽みがあって楽しめます。結婚行進曲は、スケールの大きい演奏で、これも素晴らしい出来です。女声陣は素朴な歌唱で好感が持てます。


〇1986年2月23日ライヴ−2

R.シュトラウス:変容(メタモルフォーゼン)

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ウィーン・フィルの艶やかな弦の響きをよく生かして、黄昏のロマンティックな雰囲気を濃厚に感じさせます。しかし、決して退廃的な印象に陥ることなく、テンポ早めで旋律線はすっきりとして、あくまで健康な感性によって処理されています。


○1989年11月18日ライヴ

ドヴォルザーク:交響曲第8番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

録音のせいかと思いますが、やや弦の響きを取り込み過ぎで、木管が引っ込んで聴こえるのが残念ですが、ベルリン・フィルの色彩感ある響きをよく生かした演奏だと思います。両端楽章では、リズム処理が巧く、活気があります。第3楽章はややあっさりした味付け。特に弦セクションのしなやか、かつ艶のある厚めの響きが、全曲で魅力を発揮します。オケの自発性が生かされて、旋律が心地良く歌われて、ドヴォルザークの旋律美が生きています。ちょっと明るさ一方で、陰影に乏しい感じもなくはないですが、プレヴィンにそれを言うのは野暮かもしれません。楽しめる演奏に仕上がりました。


○1996年4月14日ライヴー1

ヴォーン・ウィリアムス:タリスの主題による幻想曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ウィーン・フィルの弦は柔らかで暖かで魅力的ですが、この曲が本来求めているものはもう少し透明感のある涼しい響きのようです。しまし、これはオケの個性の問題ですから・ここはやはりウィーン・フィルのイギリス音楽として聴くべきでしょう。そう考えると透明水彩画のようなこの曲から、やや厚ぼったいながらも・独特の濃厚な情感が漂ってくるようです。


○1996年4月14日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第4番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

プレヴィンはウィーン・フィルの自発性をよく生かし、表情に無理なところがまったくない・自然な表現で好感が持てます。ワルターの演奏をちょっと思い起こさせるような・この交響曲の愛らしさを感じさせます。第1楽章も序奏から主部に展開も流れるように自然ですし、第2楽章もその穏やかな表情が魅力的です。第4楽章もテンポを早くしてオケを追い立てることをせず・表現に強引なところがまったくありません。


○1996年12月1日ライヴ

ブラームス:ドイツ・レクイエム

ユリアーネ・バンゼ(ソプラノ独唱)
トーマス・ハンプソン(バリトン独唱)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン楽友協会合唱団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ウィーン・フィルの柔らかい響きを生かした抒情的な美しさがある好演です。プレヴィンはウィーン・フィルの特性をよく生かして、自然な無理のない音楽作りを心掛けています。第1曲冒頭からソフトで暖かい弦の弱音が合唱の響きを溶け合って、とても美しいと思います。特に素晴らしいのは第2曲で、ここでは重厚かつ力強い合唱が見事です。第7曲はドラマティックな音楽作りが見事です。独唱陣も手堅い出来で、聴き終ってしみじみとした暖かい情感が後味として残ります。


○2002年1月30日ライヴ

R.シュトラウス:「薔薇の騎士」組曲

ロンドン交響楽団
(ロンドン、バービカン・センター)

ゆったりと遅めのテンポで・旋律を濃厚に歌い上げ、とてもロマンティックな演奏です。シュトラウスの甘美な旋律とゴージャスな響きを堪能させてくれますが、ややムーディーな感じでもあります。冒頭の前奏曲やオックス男爵のワルツの部分などそのけだるいムードがなるほどと思わせる発見がありますが、シュトラウスとすればもう少し軽みが欲しいところ。しかし、この組曲自体美しい旋律を単純に楽しめば良いものですから、これはこれで良いと思います。


○2009年10月17日ライヴ

R.シュトラウス:歌劇「カプリッチョ」〜幕切れの音楽

フェリシティ・ロット(ソプラノ)
NHK交響楽団
(東京、NHK・ホール)

オケの編成が大きく・響きがちょっと厚め。本来はもう少し室内楽的な小振りの響きが望ましいかも知れませんが、響きは透明で美しく、R・シュトラウス的な感覚は十分出ています。フェリシティ・ロットの伯爵令嬢の歌唱はややリート的な感じもしますが、響きが美しく音楽を堪能させます。


○2011年3月20日ライヴ−1

バッハ:管弦楽組曲第3番〜アリア

NHK交響楽団
(ニューヨーク郊外パーチェス、ニューヨーク州立大学、パーチェス・パフォーミング・アーツ・センター)

N響の北米ツアーで・四回の演奏会が行なわれました。演奏旅行出発前日の3月11日に東関東大震災が起きた為・復興の願いを込めた特別なツアーとなったものです。コンサート冒頭に演奏されたバッハのアリアはやや早めのテンポで淡々と した古典的な趣を感じさせる演奏になりました。あるいは意図的に感情を抑えに行ったかとも思いますが 、弦はもう少し糸を引くように息長く歌ってくれた方が祈りの感覚が出たのではないかと思います。


○2011年3月20日ライヴ−2

武満徹:グリーン

NHK交響楽団
(ニューヨーク郊外パーチェス、ニューヨーク州立大学、パーチェス・パフォーミング・アーツ・センター)

きっちりと定規で線を引いたような折り目正しく聴き易い演奏に仕上がったと思います。しかし、欲を言えばスッキリし過ぎで、もう少しテンポに揺らぎと遊びがあっても良いかなと思います。N響の響きがやや暗めでしっとりしているのは持ち味だろうと思いますが、若干真面目が勝った感じです。イメージとしてはラヴェルのマ・メール・ロアのような雰囲気になれば良かろうと思いました。


○2011年3月20日ライヴー3

エルガー:チェロ協奏曲

ダニエル・ミュラー・ショット(チェロ独奏)

NHK交響楽団
(ニューヨーク郊外パーチェス、ニューヨーク州立大学、パーチェス・パフォーミング・アーツ・センター)

ショットのチェロ独奏が情感あふれて・語り口が雄弁で聞かせました。テクニックも十分で、大震災の追悼ということもあったと思いますが、曲の悲愴感を強く表現していて・心を打つものがありました。対するN響の方は良い言い方をすれば手堅いサポートということになりますが、独奏者の熱い思い入れを受け止めるには表情が硬くて・澄ました感じがします。形は整っており・決して悪くはない出来ですが、もっど独奏者と一緒に曲にのめりこみ・少々形が崩れても・熱く音楽を歌って欲しいと思わせます。


○2011年3月20日ライヴ−4

プロコフィエフ:交響曲第5番

ダニエル・ミュラー・ショット(チェロ独奏)

NHK交響楽団
(ニューヨーク郊外パーチェス、ニューヨーク州立大学、パーチェス・パフォーミング・アーツ・センター)

この日のコンサートのなかではこのプロコフィエフが最もN響の体質に合っているようです。第2楽章や第4楽章はリズムを正確に刻んでいてダイナミズムも十分で、フォルム的に描くべきものはその通りに描けているので、一応の成果を挙げています。が、正確に演奏することから突き抜けて・さらに曲に肉薄するためには、もう少し熱さが必要です。響きが聴き手に突き刺さってくる感覚がないのは、物足りなく思います。もっと怒りというか・憤りのような強い感覚が聴き手に伝わってくるようでなければならないと思います。


○2011年11月26日ライヴ

R.シュトラウス:「薔薇の騎士」組曲

NHK交響楽団
(東京、サントリー・ホール)

遅いテンポでたっぷりとムーディに旋律を流すところがプレヴィン節なのだろうと思いますが、N響がオペラにあまり縁がないオケのせいか、音楽にオペラティックな生気と洒落っ気が乏しく・表情がのっぺりと間延びして・音楽が弛緩した印象があり、聴いていて心が躍るところがない演奏です。テンポは遅くても結構ですが、もっと微妙なところでテンポを揺らして緩急を付けないとこの曲の活き活きとした感覚は出ないと思います。響きの豊穣さに寄りかかっているだけに思われます。


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