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ムーティの録音 (2000年〜2009年)


○2004年1月1日ライヴ

2004年ニュー・イヤー・コンサート
ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「くるまば草」〜行進曲「何とすばらしい」、ヨハン・シュトラウスT:お好みシュべルル・ポルカ、ナイチンゲールのワルツ、ポルカ「フレデリカ」、カチューシャ・ギャロップ、ヨゼフ・ランナー:宮廷舞踏会舞曲、タランテラ・ギャロップ、ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「女王のハンカチーフ」序曲、ジプシー女のカドリーユ、ワルツ「加速度」、サタネラ・ポルカ、ヨゼフ・シュトラウス:ポルカ・スケート、ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「こうもり」〜チャルダッシュ、エドゥアルト・シュトラウス:ポルカ「大いに楽しんで」、ヨゼフ・シュトラウス;「三色スミレ」、ヨハンシュトラウスU:シャンペン・ポルカ、ヨゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」、ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「インディゴと40人の盗賊」〜ポルカ「突進」、ヨハン・シュトラウスT:インディアン・ギャロップ、ヨハンシュトラウスU:ワルツ「美しく青きドナウ」、ヨハン・シュトラウスT:ラデツキー行進曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ムーティ3回目のニューイヤー・コンサートへの登場。ウィーン・フィルのムーティの評価の高さが良く分かります。ニュー・イヤー・コンサートでのムーティの良さは小細工を弄さず・ウィーン・フィルの自発性を良く生かして、旋律が息深く歌われて・音楽をゆったりと大きくまとめているところにあると思います。しかし、この演奏会では最初の5曲目あたりまではエンジンがまだ十分に暖まっていないような感じがあります。悪くはないのですが、リズムの躍動感がいまひとつのように感じます。しかし、6曲目のランナーの「宮廷舞踏会舞曲」からはリズムに冴えが出てきて、表情が生き生きしてきます。ウィーン・フィルの弦の微妙なニュアンスが素晴らしく、雰囲気豊かな演奏です。同じくランナーの「タランテラ・ギャロップ」もリズムが斬れて・躍動感が素晴らしいと思います。第2部でもヨハン・シュトラウスUの喜歌劇「女王のハンカチーフ」序曲やワルツ「加速度」が伸びやかに旋律を歌って楽しい出来。「天体の音楽」・「美しく青きドナウ」も良いですが、しかし、ムーティの良さはポルカの方により出ているかも知れません。「サタネラ・ポルカ」や「大いに楽しんで」は早めのテンポで・生き生きとした表情が楽しく、特に「シャンペン・ポルカ」は極上の出来。


○2007年6月14日ライヴー1

ロッシーニ:歌劇「セミラーミデ」序曲

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)

これは名演。オケのテンポを早めに取り、弦の動きが実に軽やかで・リズムの斬れが良く、とても素晴らしい出来だと思います。オケが整然として・造型が機能的でスタイリッシュな印象で、ロッシーニの音楽の面白さが堪能できます。36年のトスカニーニとニューヨーク・フィルの録音を彷彿とさせます。


○2007年6月14日ライヴー2

シューベルト:交響曲第3番

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)

第3・4泊章の躍動感あふれるリズムにムーティらしいところが感じられますが、テンポを心持ち早めにとろ・旋律をよく歌わせています。ニューヨーク・フィルの響きも明るく爽やかで魅力的です。全体としてリズムの打ちは柔らかく・決して威圧的になることがなく、シューベルトの若書きの音楽のフレッシュな感覚をよく表現していると思います。


○2007年6月14日ライヴー3

ドヴォルザーク:交響曲第5番

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、エイヴリー・フィッシャー・ホール)

第1楽章のメロディアスな部分にムーティのフレッシュな感覚が生きていると思います。早めのインテンポに取っているせいか・全体的に引き締まった印象で、そこに若々しさが感じられます。それと裏腹なところはありますが、若干線が固めの印象もあるようです。ムーティは民族色ということにあまり顧慮はしていないようですが、もう少しテンポに余裕を持たせた方が歌心が生きてくるかなと思うところはあります。


○2007年10月5日ライヴ

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

シカゴ交響楽団
(ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール)

シカゴ響はサスペンションがよく効いた高級車の乗り心地を思わせる滑らかさで、響きがとても豊穣です。難しいパッセージも汗をかくこともなく・難なくこなるのです。逆に言えば、曲が表現する感情の微妙な凸凹が感じ取りにくくなっていることも事実で、ムーティのような熱気が売り物の指揮者の場合はそこが若干不利に働いているかなという気もします。全体として鏡面の上を滑るが如きの印象で、曲の佇まいがどこか透明に静的に感じられて、熱さは感じ取りにくいということろがあるようです。良かれ悪かれそれがシカゴ響の個性ということかも知れません。ともあれ造型的に申し分ないことは間違いはなく、第3楽章などの機能的な造型はみごとなものですが、第2楽章ではアンニュイな感情は透明さのなかで淡くなってしまったという不満が残ります。第4楽章での弦の息の深さは素晴らしいものです。


○2009年5月1日ライヴー1

ヴェルディ:歌劇「運命の力」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ナポリ、サン・カルロ劇場、ベルリン・フィル・ヨーロッパ・コンサート)

ムーティらしく気合いの入った熱い演奏です。オケがベルリン・フィルだけに響きはダイナミックかつゴージャス。イタリアのオペラ・ハウスで聴くような細身だけれど鋼のように力強い線の強さとはまた違った、重量感ある太さで押していく感じが実にベルリン・フィルらしいところで、しかも振っているのがムーティだからして・オペラティックな感興も満ち満ちていて、素晴らしい圧倒的な印象です。ちょっとカラヤンの演奏を思わせるところがあります。口煩いナポリっ子も唸らせたようで、演奏終わって盛んな拍手が贈られています。


○2009年5月1日ライヴー2

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ナポリ、サン・カルロ劇場、ベルリン・フィル・ヨーロッパ・コンサート)

まったく正攻法に行った演奏で、最近のベルリン・フィルでもこんなに太く重量感のあるドイツ的な響きは滅多に聴かないような気がします。やっぱりベルリン・フィルはドイツのオケだなあということを改めて感じさせます。ここでは べルリン・フィルの低弦が生きています。そのくらい太めのタッチで一気に描き切った「ザ・グレート」で、かなり肩に力の入った感じの演奏です。聴き応えはしますが、逆に言えば、全体の印象が重くて・カロリー過多で腹にもたれる感じが若干あるのと、四つの楽章を通した印象がやや一本調子に感じられるのがやや難です。例えば第2楽章がこれほどドラマティックに重く響く演奏は少ないと思いますし、第3楽章もスケールが大きい演奏ですが、やや重すぎの感じです。全体通して聴くとバランス感覚を欠く感じがあります。しかし、終楽章の怒涛のスケール感はさすがと言うべきで、ムーティらしく颯爽と締めると、それまでの難点すべて消し飛ぶ感じですが。


○2009年12月20日ライヴ−1

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ルイージ・ケルビーニ・ジョヴァ二ーレ管弦楽団
(ローマ)

ケルビーニ管弦楽団は2004年にムーティが設立したユース・オーケストラ。若いオケだけに響きが力強く・斬れがあるのは長所だと思いますすが、勢いにまかせて・リズムの刻みが浅いのは昨今はやりのユース・オケに共通した欠点で、これは致し方ないところだと思います。そのためにベートーヴェンのがっちりした構成感を感じにくくなっています。どちらかと言えば勢いで音楽を聴かせる感じです。両端楽章にその不満を感じますが、これはムーティのドライヴのせいも若干あるかも知れません。テンポが遅い中間楽章でも旋律に深みが乏しいきらいがあるのは息を深く持てていないせいなので、こういうところをムーティは指導して欲しいものだなあと思って聞きました。


○2009年12月20日ライヴ−2

ドニゼッティ:歌劇「ドン・パスクワーレ」序曲

ルイージ・ケルビーニ・ジョヴァ二ーレ管弦楽団
(ローマ)

やはりイタリア出身の若者が多いせいなのでしょうか・ベートーヴェンよりもドニゼッティの方がリズムも表情も生きいきしているようです。中間部のふっと笑みがこぼれるようなユーモアが表現できる域にはまだまだですが、元気があって楽しい演奏に仕上がりました。


 

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