(戻る)

アルフレッド・コルトーの録音 (1940年〜1962年)


○1942年7月2日

ショパン:24の前奏曲 Op.28

(パリ、スタジオ・アルベール、仏EMIスタジオ録音)

1926年の同曲の最初の録音から1957年の四回目のスタジオ録音まで補助線を引いて聞いてみると、回数を経て次第に表現の自由度が高まっていくことが感じられます。旋律の歌わせ方がより柔軟になり、自由度を得 ていく印象です。その過程の2・3回目の録音の存在感が薄くなるのは仕方ないところですが、決して魅力がない演奏ではありません。この3回目の録音では、ほぼ1957年の録音の表現の完成度を得たものとなっています。


○1943年5月24日

ショパン:ワルツ集 第1番〜第14番

(パリ、スタジオ・アルベール、仏EMIスタジオ録音)

ショパンのワルツのまとまったスタジオ録音としては2回目になるものですが、出来としては第1回目の34年の録音の方が良いように思います。この録音でのコルトーは、ピアノのタッチを軽くしようと意識的に 試しているようで、響きの透明感があり、右手に珠を転がすような指遣いが随所に聞かれます。風のなかで羽毛が踊るような軽やかなワルツで、あまり大音量を必要としないサロン的な場面での 即興的な演奏をイメージしているのかなとも思います。これは34年の録音ではあまり聞かれなかったもので、特にテンポがゆっくりした場面においてはそれが魅惑的な瞬間を生み出していることも確かですが、反面、打鍵を十分に打ち切っていない・旋律を表面的にさらっているような感じに聴こえなくもなく、34年の録音と 比べていまひとつインパクトに欠ける気がします。


○1949年11月4日

ショパン:子守歌 Op.57, 三つの新しいエチュード 遺作、ワルツ第6番 Op64-1
      前奏曲 Op.45、ノクターン第2番 Op.9-2、ワルツ第9番 Op.69-1
            ワルツ第11番 Op.70-1

(ロンドン、アピーロード・スタジオ第3、英EMIスタジオ録音)

49年ロンドンでのショパンのセッションは、いずれも名演揃いです。テンポは自在、表情は自由で、コルトーがやることがどれも曲想にぴったりはまる感じです。子守歌はゆったりしたリズムが幻想的で、軽やかな右手の動きが光の粉を撒くようです。ワルツ第6番はリズムが軽やかで即興性があると言えますが、個人的にはもう少しテンポがゆっくりの方が良い気もしますが。前奏曲はゆったりした旋律の流れがとても美しい。ノクターン第2番はゆったりと抒情に浸らせてくれる名演と云えます。ワルツ第9番と第11番も表現が自由闊達でテンポが自在で、表情がとても活き活きしています。


○1951年10月16日・17日

ショパン:舟歌 Op.60, エチュード Op.10-3, エチュード Op.10-4,
          エチュード Op.25-2、ノクターン第4番 Op.15-1、
           ノクターン第7番 Op.27-1、ワルツ第3番 Op.34-2、
      ワルツ第9番 Op69-1、 ワルツ第12番 Op.70-2

(ロンドン、アピーロード・スタジオ第3、英EMIスタジオ録音)

51年ロンドンでのショパンのセッションも、いずれも素晴らしい出来です。舟歌はロマンのうねりを感じさせるようなスケール大きい演奏が少なくないですが(それも魅力的ですが)、コルトーの場合はもう少し小振りで素朴な雰囲気で、この行き方の方が本来なのかなと思います。エ チュード作品10−3・いわゆる「別れの曲」ですが、これも慎ましく・節度のある抒情を感じさせ、ムーディに溺れることのない態度が好ましいと思います。 ふたつのノクターンは、ひとつひとつの音を大切にした演奏で、淡々とした流れのなかに瞑想的な旋律が浮かび上がってきます。三つのワルツでは、曲想の変化によるニュアンスが細やかに描き出されて、いずれも見事な出来に仕上がっています。コルトーの特質が一番発揮されるのは、やはりショパンではワルツだなということもよく分かります。


○1952年12月1日・12月2日

ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 Op.35

(東京、日本ビクター・スタジオ、ビクター・スタジオ録音)

日本演奏旅行中の貴重な録音ですが、演奏は53年の録音より良い出来だと思います。前半第1・2楽章は演奏に勢いがあって、打鍵に力強さがあってコンディションが良かったと思います。演奏は曲が進むにつれて良くなる感じで、第3楽章葬送行進曲が澄んだ抒情で聞かせます。


○1953年5月9日

ショパン:ピアノ・ソナタ第2番 Op.35

(ロンドン、アピーロード・スタジオ第3、英EMIスタジオ録音)

1933年の録音が素晴らしかったので期待しましたが、あれだけの完成度を凌ぐことはやはり難しいようで、緊張感がやや緩く感じ られます。ダイナミクスも小振りに感じられて、やや小さくまとまった印象は免れないようですが、それも33年の録音と比べればの話で、悪くない演奏ではあります。


○1957年10月24日

ショパン:24の前奏曲 Op.28

(ロンドン、英EMIスタジオ録音)

四種あるコルトーの同曲のスタジオ録音のなかでは、この録音がコルトーの特徴として云われる即興性、テンポ・ルバートが最もよく出ている名演だと思います。本録音当時のコルトーは80歳ですが、晩年のコルトーの到達したところの至芸というべきでしょう。録音は響きが豊かに録られています。旋律が心地良く歌われて、表現に自由さが満ち溢れています。それでいて作為的なところがまったく感じられないのがまた見事です。涼しく透明な抒情性が感じられます。全体の見通しが良いので、次の曲への展開にもストーリー性が感じられ、聞かせます。


 

(戻る)