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マゼールの録音(1980年ー1989年)


○1982年9月30日〜10月4日

マーラー:交響曲第5番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、米CBS・スタジオ録音)

どっしりと落ち着いた安定感を持つマーラーという印象です。「落ち着いたマーラー」というのは変な表現ですが・全体の印象が古典的であり、狂騒的なアンビバレントな要素でさえ・すべて在るべきものとして全体のなかに組み込まれているような印象です。狂おしい情感が過去を回想するような・薄いもやのかかった状態で描写されています。これがまさにウィーン・フィルのマーラーだという感じがします。とても立場が明確で・安心して聴けるマーラーだと思います。ある意味では晩年のワルターのマーラーを聴くような感じでもあります。その意味で第2・3楽章が興味深い出来で、テンポも遅く・やや重く聴こえますが、全体からみると「これが全体の印象を落ち着いたものにしているのです。第4楽章の高弦のやるせない雰囲気はやはりウィーン・フィルならではの魅力であり、第5楽章もずっしりとした聴き応えのあるものに仕上がっています。


○1983年5月15日ライヴ

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン・コンツェルトハウス大ホール、ウィーン芸術週間)

ポリーニをピアノは打鍵が強靭で、音楽の骨格が太く聴きごたえがします。落ち着いたテンポで、リズムがしっかり打ち込まれており、濃厚なロマン性と云うよりは引き締まった古典的な趣を感じさせます。特に第1楽章はマゼール/ウィーン・フィルの重厚なサポートと相まって、とても重みのある良い演奏に仕上がりました。反面、第2〜4楽章は悪いということでもないですが、バランス的に軽めの印象に思われて、結果として第1部(第1楽章)・第2部(第2〜4楽章)という二部構成みたいに聞こえてしまいました。そのなかでは第3楽章のゆったりした伴奏が魅力的に感じられました。


○1984年4月4日ライヴ

ベルリオーズ:交響曲「イタリアのハロルド」

ヴォルフラム・クリスト(ヴィオラ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベルリン・フィルの重厚な響きが、内省的なこの曲に似合っているようで、クリストのヴィオラもきっちりとオケのなかに組み込まれて、堅実な出来であると思います。マゼールの指揮は、手堅いという印象です。


○1985年9月10日ライヴ

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ルツェルン、クンスト・ハウス)

マゼールの解釈は強引なところはなく、テンポ設定も普通だと思いますが、「カスチュイの凶暴な踊り」の強烈なリズムではオケが乱れて・もつれる場面があり、いかにもオケが曲に慣れていない感じです。響きが意味を持たず、ただの音響に墜している感じがあります。「エレジー」や「子守歌」のようなゆっくりした場面ではウィーン・フィルの柔らかく温かみのある弦と木管の響きがやさしく響きます。ここにウィーン・フィルの良さが出ています。


○1986年11月5日ライヴ

ハイドン:交響曲第92番「オックスフォード」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

大編成オケによるロマンティックなハイドンですが、大柄な身体をもてあましたような鈍重なハイドンで、出来はあまりよろしくないようです。マイク・セッティングのせいもあるかも知れませんが、冒頭から響きが靄にかかったような感じで厚ぼったく、線が明確でない感じです。もう少し高弦を強くして・線を明確に取らないとハイドンらしさは出ないのではないでしょうか。特に第2・3楽章のリズムが重くて、音楽が沸き立ってこない感じがします。


○1987年12月2日ライヴ

プロコフィエフ:交響曲第5番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベルリン・フィルの重厚な響きをよくいまして、線の太い、スケールの大きい演奏に仕上がりました。マゼールは、四つの楽章の性格をよく描き分けています。特に第1楽章がスケールが大きく、重厚な演奏だと思いますが、面白いのは中間の2楽章です。第2楽章の鋭敏なリズム処理は実に面白く聴けます。また第3楽章は抒情性の澄んだ流れのなかに、歪んだ感性が感じられて、秀逸な出来だと思います。第4楽章もリズムが軽やかで、とても面白いと思います。


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