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レヴァインの録音 (1990−1999年)


○1990年2月18日ライヴ

マーラー:交響曲第3番

ワルトラルト・マイヤー(ソプラノ)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン少年合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ほぼインテンポで・極端な緩急をつけず・比較的あっさりとした表現ですが、やるべきツボはしっかり押さえて・なかなか聞かせる演奏に仕上がりました。まずウィーン・フィルの金管の音色が渋みと量感があって実に魅力的です。それに柔らかく温かみのある弦もいいと思います。第2楽章や第4楽章も比較的早めのテンポで、過度な思い入れを入れず・サラリとした表現ながら、そこに澄んだ叙情性が感じられます。各楽章のバランスが良く取れて、聴き易い演奏です。


○1991年5月5日ライヴー1

ヴェルデイ:歌劇「ルイザ・ミラー」〜アリア「穏やかな夜には」

プラシド・ドミンゴ(テノール)
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、カーネギー・ホール100周年記念コンサート)

ドミンゴは声量と艶があって、その朗々とした歌唱が実に見事です。会場を圧するような威厳があってさすがと言うえきか。オペラの指揮が手に入ったレヴァインの伴奏も素晴らしいと思います。


○1991年5月5日ライヴー2

R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、カーネギー・ホール100周年記念コンサート)

元気の良い演奏で、オケがよく鳴っています。特に金管が輝かしく・朗々としてなかなか良い出来です。表現の幅が大きく、表現がシャープです。その代わり終盤のティルの孤独感などはまったくすっ飛んでいるようですが、これだけ元気一杯だとそれなりに楽しめます。ユーモア感あって・ピチピチしたリズムが素晴らしく、曲の展開がダイナミックで一気に聴かせます。


○1991年5月5日ライヴー3

ベートーヴェン:合唱幻想曲

アルフレート・ブレンデル(ピアノ独奏)
ニューヨーク芸術協会合唱団
ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、カーネギー・ホール、カーネギー・ホール100周年記念コンサート)

ブレンデルのピアノが実に見事です。渋い音色で力強い打鍵がまさにベートーヴェンの響きで、音楽が骨太いのです。ここではブレンデルが演奏の方向を完全にコントロールしているような感じさえします。レヴァインはブレンデルによく合わせた巧いサポートで、充実した演奏に仕上がりました。合唱は響きがちょっと粗い感じもしますが、素朴な出来です。


○1992年11月

マスネ:タイスの瞑想曲、サラサーテ:カルメン幻想曲

アンネ・ゾフィー・ムター(ヴァイオリン独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

ムターの至芸を聴くべき演奏と云うべきか。 どちらの曲もムターの個性を強烈に押し出して おり、レヴァインもウィーン・フィルもソロの節回しに耳をよく澄ませて、音楽に寄り添ったサポートをしていることには感心させられます。ムターの技巧が飛び抜けているのはもちろんですが、音色のパレットが実に多彩なので聴き応えがします。タイスの瞑想曲は、冒頭はすすり泣くが如くで、感情を濃厚に入れて音楽の起伏が実に大きい。オペラの間奏曲の範疇を大きく飛び越えて、もはやムターの一大肖像画と化しており、その味わいの濃厚さに辟易する寸前という感じもしなくはないですが、表現の深さは比類ないものです。カルメン幻想曲も味わいはとびきり濃厚で、表現の切れも良く、ダイナミックな演奏に仕上がっています。ちょっと厚化粧のカルメンという印象もしますが、その色気と媚態は聴き物です。ただ味付けが濃厚に過ぎて、聴き終って他のスッキリした演奏で口直したくなる感じも多少ありますが。


○1992年11月8日ライヴー1

ベルリオーズ:歌劇「ベンベヌート・チェルリー二」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

テンポ速めで・疾走するようなオケの動きが素晴らしいと思います。若干テンポが速や過ぎて音楽が上滑りする場面がなくはないですが、元気一杯の演奏です。


○1992年11月8日ライヴー2

ドビュッシー:管弦楽のための映像・第3集〜ジーグ・イベリア・春の踊り

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

レヴァインの指揮がテンポが良く・リズムが明確で、パノラマ的に展開する音楽作りがいかにも陽性です。しかし、ベルリン・フィルの響きはどちらかと言えば暗めで思いので、オケの個性を考えると・もう少しテンポを遅くして・その暗めの色合いを生かした音楽作りをしても良いようにも思われます。それでもベルリン・フィルは腕効き揃いだけにリズム重めなりに重量感がある演奏をしています。オケの重量感と暗い色調がイベリアにおいて面白い効果を挙げている箇所があります。


○1992年11月8日ライヴー3

エルガー:エニグマ変奏曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベルリン・フィルの若干暗めで重い響きが・イギリスのオケによるエルガーとはまた違った趣があり、北海の暗い荒海と独特の湿った空気を感じさせて・なかなか魅力的に感じられます。レヴァインの指揮はテンポ速めで、明快に音楽をテキパキと進めていきます。この勢いと乗りの良さがいかにもレヴァインです。ベルリン・フィルは低音の効いた弦セクションが威力あり、レヴァインの棒にしっかりとついていきます。旋律線を明確に取って・各変奏をしっかりと描き分けていきます。眼前の光景がパノラマのように変化して実に面白く、この辺はレヴァインの処理の巧さだと思います。


○1992年11月22日ライヴー1

ドビュッシー:交響詩「海」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

これは名演。柔らかい弦の響きと渋く響く金管が溶け合って豊かで味わい深い響きで、ウィーン・フィルならではの演奏になっています。ウィーン・フィルは確かに立ち上がりの鋭いオケではないですが、これも旋律の絡み合いをマイルドに描き出す方向に作用しています。レヴァインはオケの特質をよく生かして精妙かつダイナミックな演奏を展開しており、そのオケコントロールのうまさは特質すべきものです。


○1992年11月22日ライヴー2

ブラームス:アルト・ラプソディ

アンネ・ゾフォー・フォン・オッター(アルト)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

フォン・オッターの独唱はのびやかで情感を込めた歌唱が素晴らしいと思います。レヴァインは手堅いサポートで、特に合唱が加わってからの盛り上げは感動的です。第3部アダージオは弱音を効果的に使えば、さらに感動が深くなったでしょう。


○1992年11月22日ライヴー3

ブラームス:交響曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

やや遅めのテンポを取って・この曲の叙情的な側面を強調した演奏です。特に第2・第3楽章の出来が素晴らしいと思います。ウィーン・フィルの弦の優美な音色とふくよかな金管の響きが溶け合って実に魅力的です。テンポはゆっくりですが、旋律が粘ることなく・旋律が十分に歌われています。静けさのなかに情感がしっとりと織り込まれています。この緩徐楽章にレヴァインの美点がよく現われていると思います。両端楽章においてもその叙情的な要素が見えており、表現の彫りの深さと力強さにはやや譲るとことがありますが、手堅くまとめた演奏になっていると思います。


○1993年8月29日ライヴ−1

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ウィーン・フィルの特質を生かして叙情性が優った演奏となっています。第1曲「序章」などウィーン・フィルの場合はリズムが鋭く立ち上がらないし・弦の響きがマイルドであるせいか、時代への不安といったピリピリした鋭敏な感覚よりは、どこか慰めにも似たようなノスタルジックな柔らかい響きに聴こえるのが大変に面白いと思います。第4曲「中断された間奏曲」にも同じようなことが言えます。第5曲「終曲」では弦の激しい動きのなかにも重厚な味わいを見せています。そのために落ちついたたたずまいを見せるのは、この曲が完全に古典化したということなのでしょうか。


○1993年8月29日ライヴー2

ブラームス:交響曲第1番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

あまりテンポを動かさず、早めのテンポで手堅くまとめた印象です。特に目立った不満もなく・オケも良く鳴っているのですが、しかし、聴いた後に何となく物足りなさが残ります。リズムの打ち込みが浅く・旋律を大きな息でとらえないために、旋律の陰影がはっきりしないせいかと思います。第2楽章が豊かさに欠けて平板に聴こえるのはそのせいです。両端楽章もソツはないのですが、もう少し突っ込みが欲しいところです。


○1995年5月

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜前奏曲と愛の死

メトロポリタン管弦楽団
(ニューヨーク、ニューヨーク・マンハッタンセンター、独グラモフォン・スタジオ録音)

さすがにオペラの名コンビだけあって・曲がすっかり手に入っており、旋律が息深くゆったりと歌われ・とても感銘深い演奏です。特に高弦に澄み切った透明さがあって、旋律が実に滑らかさを持っています。この透明感と叙情性は、ドイツ的などろどろした情念のワーグナーとはひと味違った素晴らしさです。


○1995年10月22日ライヴー1

バッハ/ウェーベルン編曲:「音楽の捧げ物」より六声のリチェルカーレ

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

弦の編成が大きく、ウィーン・フィルの柔らかく豊かな弦の響きのなかに叙情性が埋没した感じで、ロマンティックではあるのですが・和声の絡み合いがもうひとつ明確になってこない印象です。


○1995年10月22日ライヴー2

R.シュトラウス:交響詩「死と変容」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

テンポをかなり遅く取って・旋律を慈しむように丁寧に歌い上げていきます。特に前半が印象に残ります。中間部はちょっとテンポが早くなりますが、終結部ではまたテンポが遅くなっていきます。ロマンティックな表現で・ウィーン・フィルの弦の美しさがよく生きていますが、ちょっとリズムが重くて・表現にいまひとつの冴えが乏しい感じです。ちょっとムード音楽的な甘さが同居しているように感じられます。


○1995年10月22日ライヴー3

ブラームス:交響曲第2番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

いわゆるドイツ風の重苦しいブラームスではなく、透明で明るい響きのなかに爽やかな叙情性を感じさせる演奏に仕上がっています。出来の良いのは第2・3楽章で、早めのテンポであっさりした軽い味わいのなかに、明るい太陽の光に照らされた伸びやかな感性を感じさせます。ウィーン・フィルの弦が流れのなかでキラキラ輝くようで、ここにはレヴァインの最良の面が表われているようです。両端楽章も悪くないのですが、中間楽章と比べるとテンポが遅めに感じられ・構成としてバランスが悪く感じられるのと、表現に冴えと緊張感がもう少し欲しいところです。


○1995年11月3日ライヴー1

R・シュトラウス:交響詩「死と変容」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(京都市、京都コンサート・ホール)

ウィーン・フィルの柔らかい弦の響きが美しく、また木管が印象的です。早めのテンポで一貫させて、情念がうねるような感じではなく・スッキリと純音楽的で澄んだ美しさが味わえます。レヴァインの語り口がうまくて、各場面を巧くまとめて・聴き手を飽きさせません。


○1995年11月3日ライヴー2

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(京都市、京都コンサート・ホール)

晴れ渡る青空の如く・颯爽としてさわやかな演奏です。リズムがよく斬れて、低音の響きが効果的で推進力があります。特に第3・第4楽章はオケの性能全開という感じで、怒涛の如く疾走する迫力があります。しかし、聴いた後の爽快感はありますが・ちょっとアッケラカンと楽天的な感じがあります。シューベルトがこの曲に込めたメランコリックな浪漫性は消し飛んでいるようです。第2楽章はアタックが強すぎで・ひなびた味わいは感じられません。造形的には見事な演奏ですが。


○1997年3月25日ライヴ

ビゼー:歌劇「カルメン」

ワルトラウト・マイヤー(カルメン)、プラシード・ドミンゴ(ドン・ホセ)
セルゲイ・レイフェルクス(エスカミーリオ)、アンジェラ・ゲオルギウ(ミカエラ)
メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)

重量級の歌手を揃えて声の饗宴という点では豪華なもので・なかなか聴かせますが、全体的に歌唱が大柄です。特に女声陣にそれが言えます。マイヤーのカルメンは声に艶もあるし・伸びもあって、確かに気の強い・気位の強いカルメン像は作れてい ますが、陰影が乏しい感じです。カルメンの屈折した心理を描写できていないように思います。ゲオルギウのミカエラもカルメンと色気を張り合いそうな感じで、歌唱に清楚さが欠けて・あまり良い出来ではないようです。ドミンゴも女声陣に釣られたのか・声を張り上げる感じが強くて、英雄的なホセになっており、これも陰影が乏しく不満を感じます。唯一レイフェルクスは声が力強いなかにも端正さがある歌唱で、カルメンが惚れるのも納得できるエスカミーリオです。レヴァインの指揮はツボを押さえた堅実なものです。


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