(戻る)

レヴァインの録音 (1989年以前)


○1972年4月22日ライヴ

プッチーニ:歌劇「マノン・レスコー」〜第4幕の二重唱

モンセラット・カバリエ(マノン)、プラシード・ドミンゴ(デ・グリュー)
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場、支配人ルドルフ・ビング引退記念ガラ・コンサート)

短い二重唱でも名歌手の共演はさすがに充実しています。特にドミンゴはその若々しく・ストレートな歌唱が魅力的です。レヴァインの指揮は手馴れたものです。


○1978年4月5日ライヴー1

レオンカヴァッロ:歌劇「道化師」

プラシード・ドミンゴ(カニオ)、テレサ・ストラータス(ネッダ)
シェリル・ミルンズ(トニオ)、アラン・モンク(シルヴィオ)
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)

芸達者が揃っているので見応えのある舞台に仕上がりました。冒頭口上でのミルンズはその語り口が実に情感こもって素晴らしく、ストラータスも感情表現が実に細やかです。ドミンゴのカニオは怒りっぽい・直情的な性格をよく出していますが、アリア「衣装をつけろ」はちょっと泣き過ぎのように感じられます。同日の「カヴァレリア」もそうですが、レヴァインの指揮は響きの色調がやや暗めで・リズムが重い感じがします。しかし、最後の殺しの場面はなかなか迫力があります。


○1978年4月5日ライヴー2

マスカーニ:歌劇「カヴァレリア・ルステカーナ」

プラシード・ドミンゴ(トリッドウ)、タチアナ・トロヤノス(サントゥッツァ)
アイソラ・ジョーンズ(ローラ)、ヴァーン・シュネイル(アルフィオ)、ジーン・クラフト(ルチア)
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)

全体に響きの色調が暗めで・リズムが粘る感じがあって・スケール感はあり、ドラマティックで楽しめますが、若干ワーグナー的な感じで人物像が重くなっており、ヴェリズモの簡潔な力強さとはちょっと違う印象を受けます。この印象がオケから来るのか・歌手から来るのか判然としませんが、トロヤノスのサントッツァの歌唱はやや威圧的な感じがあり、それに対抗してかドミンゴも若干線が強めの感じがします。


○1979年11月27日ライヴ

ワイル:歌劇「マハゴニー市の興亡」

アストリッド・ヴァルナイ(ベグヴィック)、レグナー・ウルフング(ファッティ)
コーネル・マクニール(モーゼス)、テレサ・ストラータス(ジェニー)
リチャード・キャシリー(マホニー)、アルトゥーロ・セルジ(ジェイコブ)
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)

ブレヒトのブルジョア資本主義批判の作品がメットで上演されること自体が作者にとっては皮肉というところですが、時代を経て・そのプロテスト要素は薄れ、エンタテイメントとしての要素が高まったということでしょうか。歌手陣は多少オペラチックな歌唱かなと思うところもありますが、作品自体が意識的にチープな寸劇的展開を目論んでいるものですから、こうしたオペラティックな残渣が却ってアンチ・オペラ作品としてのワイルの音楽の意図を意識させるというところで興味深いということが言えるのかも知れません。むしろその後のミュージカルへの橋渡しの役割を見出せるということかと思います。歌手ではジェニー役のストラータスがひときわ輝きますが、べグヴィック役のヴァルナィも怪演で聞かせ、マホニー役のキャシりーがマハゴニーの生活に適応できない実直な人柄をよく演じて・これも好演です。


○1982年1月16日ライヴ

プッチー二:歌劇「ボエーム」

テレサ・ストラータス(ミミ)、ホセ・カレラス(ロドルフォ)
レナータ・スコット(ムゼッタ)、ルチャード・スティルウェル(マルチェロ)
アラン・モンク(ショナール)、ジェームス・モリス(コリーネ)

メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)

名歌手揃いで期待しましたが、豪華キャストにありがちな声の饗宴に終始する感じで、細やかな感情表現よりも・どれだけ声を張り上げられるかの方にみなさん神経が行っているように思われます。レヴァインの指揮もそれに合わせたように大柄な音楽作りです。それとプッチー二の場合はもう少しリズムを揺らした方が良ろしいのではないでしょうか。カレラスにもストラータスにも言えることですが、第1幕・第4幕ではこじんまりしたとしても、歌唱にもう少し音を抑えたヴェリズモの繊細さが欲しいと思います。主役ふたりだけでなく・脇役を含めたアンサンブル全体に問題があると思います。最後のミミの死の場面に哀切さが足りないのはそのせいでしょう。従って一番の聴きもののは豪華でスケールの大きな第2幕ということになります。ここでのスコットのムゼッタはさすがの出来です。


○1982年3月28日ライヴ

モーツアルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」よりの第1幕のフィオリデリージとドラベルラの二重唱(プライス&ホーン)、モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」よりスザンナのアリア(プライス)、ヘンデル:歌劇「ロデリンド」からのアリア(ホーン)、ヘンデル:歌劇「リナルド」からの二重唱(プライス&ホーン)、ヴェルデイ:歌劇「シチリア島の夕べの祈り」序曲、ヴェルデイ:歌劇「アイーダ」からの第2幕の二重唱(プライス&ホーン)、ロッシーニ:歌劇「コリントの包囲」からのアリア(ホーン)、ヴェルデイ:歌劇「運命の力」より「神よ、平和を与えたまえ」(プライス)、ベルリー二:歌劇「ノルマ」序曲、ベルリー二:歌劇「ノルマ」のノルマとアダルジーザの二重唱(プライス&ホーン)、マイアベーア:歌劇「ユグノー教徒」からのアリア(ホーン)、プッチーニ:歌劇「つばめ」よりのアリア(プライス)、プッチーニ:歌劇「蝶々夫人」から蝶々さんとスズキの二重唱(プライス&ホーン)

レオンタイン・プライス(ソプラノ)、マリリン・ホーン(メゾ・ソプラノ)
メトロポリタン歌劇場管弦楽団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場、メトロポリタン・オペラ・ガラ〜プライス/ホーン・ジョイント・コンサート)

プライスとホーンのジョイント・コンサートはプログラムの内容も変化に富んでいて・とても充実した演奏会になりました。まず圧倒されるのはヘンデルの「ロデリンド」とロッシーニの「コリントの包囲」のアリアで見せるホーンの超絶技巧の素晴らしさ。 声のコントロールが見事で、息もつかせない見事な出来です。プライスは最初は喉が暖まっていない感じですが、ヘンデルの「リナルド」での二重唱 から乗ってきて、当たり役のヴェルデイ:「運命の力」のレオノーラのアリアはさすがの出来。 プライスは声の美しさもあることながら・その歌唱が実にノーブルな気品をたたえているのが素晴らしいと思います。その後のふたりの歌唱は乗りまくりで・どれも素晴らしいと思います。レヴァインのサポートの巧さは言うまでもありませんが、「シチリア島の夕べの祈り」・「ノルマ」序曲も素晴らしい出来 です。


○1983年6月14日〜20日ライヴ−1

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番

アルフレート・ブレンデル(ピアノ)
シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール、蘭フィリップス・ライヴ録音)

これは素晴らしい演奏です。まずブレンデルのピアノのタッチが粒立って・柔らかい深みのある音が素晴らしいと思います。表現が自然で・無理な力の入ったところがまったくなく、モーツアルトかと思うような軽やかさがある一方で、リズムがしっかり取られて音楽が実に深くて・まさにベートーヴェンという感じがします。レヴァインの指揮するシカゴ響がこれも見事。柔らかく繊細な響きで、ブレンデルの陰影のあるピアノのさりげなく引き立てています。ピアノの微妙な表情をオケがくっくりと浮き上がらせてくれるようで、まさにブレンデルのピアノをサポートするためのオケという感じです。特に素晴らしいのは第1楽章で、ゆったりとしたテンポのなかに・ベートーヴェンの柔和な表情が浮かび上がり、第4番の叙情的な要素を十二分に描きつくしています。第3楽章はまるでモーツアルトの協奏曲を聴くような軽やかさと音楽的な喜びに満ちています。


○1983年6月14日〜20日ライヴ−2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

アルフレート・ブレンデル(ピアノ)
シカゴ交響楽団
(シカゴ、シカゴ・オーケストラ・ホール、蘭フィリップス・ライヴ録音)

ソリストとオケががっぷりと四つに組んで・火花を散らすという演奏ではなく、ソリストとオケがこれほどまでに一体化した演奏も珍しいと思います。「皇帝」と言うと・スケール感とか威厳とかのイメージがありますが、そうしたイメージに捕われず・音楽のどこにも無理な力を加えることなく・音楽そのものからその器の大きさを語らしむような演奏なのです。モーツアルトのような軽やかさに、ベートーヴェンらしいフォルムが加わった素晴らしい演奏です。印象としては第4番と同じことが言えますが、もちろん第5番ではそのスケール感に申し分なし。特に素晴らしいのは第1楽章ですが、テンポをしっかり取って・その足取りにベートーヴェンのフォルムが見事に表現されています。しかもその表情に威圧的なところがまったくありません。第2楽章の 清冽な表現も見事。そして第3楽章の軽やかさ。レヴァインはブレンデルを引き立てつつ・鳴らすべきところはしっかりと鳴らし、まさにサポートの見本のような指揮ぶりです。


○1985年6月17日ライヴ

R.シュトラウス:交響詩「ドン・キホーテ」

ヴォルフガング・ヘルツァー(チェロ独奏)
ヨゼフ・シュタール(ヴィオラ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン・コンツェルトハウス・大ホール)

ソロがオーケストラに溶け込み・協奏曲的な色合いは薄れて管弦楽曲的ということでしょうが、その良さもあり・悪さもあります。ソロにあまり強い個性は感じられず・もう少し遊び心があっても良いと思います。チェロもヴィオラも真面目なのです。しかし、一幅の絵と考えると・オケは巧いし、レヴァインもこうした描写的色彩的な作品は得意なので、その語り口は楽しめます。


○1985年12月14日ライヴ

モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」

ルジェッロ・ライモンディ(フィガロ)、キャスリーン・バトル(スザンナ)
トーマス・アレン(アルマヴィーヴァ伯爵)、キャロル・ヴァネス(伯爵夫人)
フレデリカ・フォン・シュターデ(ケルビーノ)
メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)

歌手揃いで・演出(ジャン・ピエール・ポネル)も素敵で・充実した演奏に仕上がりました。レヴァインはしっかりとリズムを取った無理のないテンポで、歌手側から見るととても歌い易いサポートだと思いますが、それだけではなくモーツアルトの音楽の細かな感情が実に丁重に表現されており、四つの幕がしっかり噛み合ったバランスの良い指揮ぶりで・今更ながらその巧さに感心させられます。歌手たちはそれも素晴らしいですが、威勢の良いライモンディのフィガロと 、これもしっかりとした歌唱のアレンの伯爵の男性陣が充実。ヴァネスの伯爵夫人も声の伸びが良くて聴かせます。フォン・シュターデのケルビーノは当たり役ですが、ナイーヴで魅力的な歌唱。バトルのスザンナは声量がちょっと乏しいのが残念ですが、歌唱はとてもチャーミングです。


○1986年1月26日ライヴー1

モーツアルト:交響曲第39番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、ザルツブルク・モーツアルト週間)

快速テンポで、大変威勢の良い演奏です。特に両端楽章は、アクセントと、強弱の振幅を大きく取って、ダイナミックでメリハリのある演奏になっていますが、出来がやや粗く、ちょっと作為性を感じます。元気が良過ぎて、モーツアルトらしい雅やかさに欠けるように思います。威勢が良い割に、音楽の器の大きさを感じないのは、そのせいではないかと思います。第2楽章もテンポがサラサラ流れるので、心惹かれるところが少ない感じです。もう少しテンポを落として、ウィーン・フィルの柔らかな弦を生かして旋律をたっぷり歌わせた方が良いと思いますが。


○1986年1月26日ライヴー2

モーツアルト:ピアノ協奏曲第27番

ケン・ノダ(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、ザルツブルク・モーツアルト週間)

全体的におとなしく、いまひとつ溌剌とした躍動感に欠けます。ケン・ノダのピアノ独奏はその折り目正しさに好感は持てますが、タッチがちょっと重くて、モーツアルトの魅力を生かせていないように思います。内省的な趣を持つ曲ではありますが、地味で大人しい印象を与える結果となっていますレヴァインの指揮は同日の39番の交響曲のエネルギーをもてあましたような演奏から一転して、抑え目のサポートに終始します。そのうえウィーン・フィルの弦がどういうわけか乱れ気味で感興を削ぎます。このなかでは第3楽章が端正な出来であると云えます。


○1986年6月5日ライヴー1

モーツアルト:ピアノ協奏曲第24番

アルフレート・ブレンデル(ピアノ独奏)ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

レヴぁインのテンポは全体にちょっと速く、威勢が良過ぎる感じがします。特に第1楽章は録音のせいかオケの音量が大き過ぎで・ピアノを押しつぶすようなサポートで、早めのテンポで疾走する感じが音楽を落ち着かないものにしています。第2楽章以降は若干持ち直す感じですが、ブレンデルとは最後まで息が合っていない感じがします。ブレンデルのピアノは音が粒立って・ちょっと渋めだがしっとりした音色で聴かせます。派手さはないのですが、しっかりと音楽のツボを押さえた表現で申し分ありません。それだけにもう少しオケが押さえたテンポでサポートして欲しかったと思います。レヴァインは合わせ物は巧いというイメージがあっただけに・これは意外でした。


○1986年6月5日ライヴ-2

モーツアルト:交響曲第38番「プラハ」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

第1楽章や第4楽章にリズムの刻みが若干浅い感じがしなくもないですが・テンポを早めにとってキビキビとした躍動感が魅力的な演奏に仕上がりました。ベルリン・フィルから引き締まった響きを引き出しています。スケールはやや小振りに感じられますが、四つの楽章の構成が密に感じられて・手堅い表現です。第2楽章は早めのテンポで透明で爽やかな表現が魅力的に感じられます。


○1986年8月2日ライヴ

モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、全曲上演からの抜粋)

テンポを中庸に取り・表情が生き生きとした魅力的な演奏です。リズムはキビキビとして重くなることなく・表情もウィーン・フィルの弦が柔らかく魅力的です。オペラ指揮者レヴァインの手腕を感じさせる安心して聴ける演奏です。


○1986年12月14日ライヴー1

モーツアルト:交響曲第31番「パリ」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

レヴァインのモーツアルトは爽やかで明るいのが持ち味ですが、両端楽章はちょっと元気が良すぎる感じです。オケの編成がやや大きく・響きが重い印象があります。ここでは第2楽章アンダンテの軽みのある表現に・レヴァインの良さが現れています。


○1986年12月14日ライヴー2

マーラー:歌曲集「子供の不思議な角笛」から6曲

ジェシー・ノーマン(ソプラノ)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ノーマンの声はグラマラスで・声の厚み・深みとも素晴らしいですが、歌唱としてはややオペラティックで・リートとしてはもう少し端正さが欲しい気がします。したがって、劇的な要素の強い「番兵の夜の歌」・「魚に説教するパドバの聖アントニウス」・「高い知性への賛歌」などにおいてダイナミックな歌唱が楽しめます。ただし曲の背後にある虚無的な陰りは歌唱の豪華さに埋もれてしまった感じがします。その一方で「ラインの伝説」のような澄んだ叙情性が要求される曲ではやや饒舌さが耳につく感じがします。レヴァインの指揮はダイナミックで色彩的で愉しませますが、ちょっと楽天的な感じがします。


○1986年12月14日ライヴー3

シューマン:交響曲第3番「ライン」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

レヴァインは明るい感性で・さわやかに描きあげ、ウィーン・フィルの魅力をよく生かしました。構成が緊密と言えないこの交響曲を・どちらかと言えば各楽章を等質に描いて・組曲的な印象があるのが面白く感じられました。両端楽章はテンポを速めに取ってスケールのある表現。第2楽章はサラリとして・過度に重くならないのが良いと思います。第3楽章のしっとりした叙情的な表現も魅力的です。


○1987年11月25日ライヴ

シューマン:交響曲第3番「ライン」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

全体を速いテンポで通した、実に颯爽とした演奏です。特に第1楽章はオケが鳴り切っていて、ベルリン・フィルのゴージャスな響きと躍動感が楽しめて、聴き応えがします。第2楽章も早めのテンポでサラサラ進みますが、ここはもう少し遅めであっても良いかなという気がします。第4楽章も躍動感があって、颯爽とした出来です。しかし、聴き終ってみると、造形的にスカッと割り切って見事なのだけれども、スポーツ的快感というか、もう少し深味が欲しい不満がしますが、まあこれはこれで良いのかも。


○1987年12月6日ライヴ−1

モーツアルト:交響曲第29番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

編成は小さめでですが、弦の響きがシャープで・造形の引き締まった好演だと思います。旋律が軽やかに歌われていて、印象がとても爽やかです。特に両端楽章はリズムを早めに取って・キビキビと躍動感のある演奏で、この交響曲にふさわしい小粋な感じを出すことに成功しています。


○1987年12月6日ライヴ−2

モーツアルト:セレナード第13番「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

同日の第29番と同じ印象ですが、ちょっと威勢が良過ぎるように聴こえるのは曲のせいかも知れません。旋律もよく歌われて・リズム感もキビキビしていて悪くないのですが、もう少し柔らか味のある方がよいように思いえます。第2楽章はちょっとテンポが早くて・曲がサラサラと流れる感じがあります。


○1987年12月6日ライヴー3

モーツアルト:交響曲第35番「ハフナー」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

全体にテンポが早めで・元気の良いモーツアルトですが、両端楽章はテンポがちょっと速過ぎに思えます。特に弦の威勢が良過ぎで、音楽がピョンピョン跳ねている感じで・聴いていてどうも落ち着きません。リズムの打ちが強く・旋律線が強いのも、もう少し雅びを感じさせてもらいたいものだと思います。中間楽章のサラリとした味わいはなかなか良いと思います。


○1989年6月

モーツアルト:交響曲第40番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

レヴァイン/ウィーン・フィルのモーツアルト交響曲全集のなかでも、この第40番は秀演であると思います。特に前半の2楽章が素晴らしいと思います。テンポはやや早めにとっていますが、旋律は滑らか過ぎず・上滑りすることなく、むしろ訥々とした趣さえあります。明るくスマートなモーツアルトを予想していたのですが、ここはウィーン・フィルの個性を生かしたレヴァインの手綱さばきのうまさが光ります。第2楽章もテンポは早めですが、感情過多ではなく・甘ったるくないのが良いと思います。第3・4楽章は欲を言えばさらに造形の厳しさを求めたい気がしますが、手堅い出来だと言えましょう。数ある第40番の名演奏のなかでも印象に残る演奏であると思います。


○1989年6月21日ライヴー1

モーツアルト:交響曲第23番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン・コンツェルトハウス・大ホール)

テンポ快速で颯爽として、表情が生き生きとしており・いかにもレヴァインらしい演奏です。ロココ調の雅な雰囲気とはいきませんが、音楽する楽しさいっぱいという感じで・これはこれで十分楽しめます。ウィーン・フィルの弦が伸びやかに歌われ、リズムがピチピチと飛び跳ねるようです。


○1989年6月21日ライヴー2

モーツアルト:ピアノ協奏曲第24番

アルフレート・ブレンデル(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン・コンツェルトハウス・大ホール)

全体的に早めのテンポで・音楽が軽やかに流れて・リズムが生き生きとしています。この曲は内省的な要素も持つと思いますが、レヴァインはどこまでも明るいのです。まああまり深刻ぶらなければ・純音楽的な喜びに溢れた演奏であるとも言えます。ブレンデルのピアノは渋い音楽を作っており・決してレヴァインとミスマッチというわけではないですが、第1楽章などではその内省的な響きはもう少し遅めのテンポを望んでいるようにも思えました。なかでは第2楽章はしっとりとした落ちつきを持った出来で好ましいと思いました。


○1989年6月21日ライヴー3

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン・コンツェルトハウス・大ホール)

冒頭はテンポ遅めで・木管が粘った歌い方でオヤッと思わせます。ウィーン・フィルにとっては決して向きの曲ではないと思いますが、レヴァインはこれを逆手にとって・テンポを大きく揺らして仕掛けを施しています。ウィーン・フィルは若干テンポが重めのところがあるので・これがテンポの遅い場面で効いています。レヴァインの音楽作りは線を明確に取ったもので、ウィーン・フィルはレヴァインの棒に必死で喰らいついていく感じで熱演です。第2部では打楽器陣が大活躍です。オケの色彩も油絵具のように濃厚で、とても面白く聴きました。


○1989年8月19日ライヴ

マーラー:交響曲第2番「復活」

キャスリーン・バトル(ソプラノ)
クリスタ・ルートヴィッヒ(アルト)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

実に斬れの良い演奏です。テンポを心持ち早めに取って、リズム感良く・ダイナミックで・スケールが大きく、鳴るべき所は鳴り・歌うべき所は歌うという風に聴き手がこうあって欲しいと思う通りに鳴っている感じで・聴いていて爽快感があります。やや楽観的な気配はありますが・これはレヴァインの体質と言うべきでしょうけれど、しかし、マーラーの聖と俗が混在する状況を見事に描き出していると思います。特に第1楽章や第5楽章は聴き応えがあります。第2楽章での透明感ある美しさはウィーン・フィルならではでしょう。独唱陣も素晴らしい出来です。バトルの声は澄んで美しく、ルートヴィッヒの深みのある歌唱も素晴らしい出来です。ウィーン・フィルの弦の艶やかさが魅力的で、オケも精一杯の力を出し切った演奏であると感じます。


(戻る)