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クレンペラーの録音(1966年〜1973年)


○1967年ライヴ

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

エルサレム交響楽団(現・イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団)
(演奏場所不明・エルサレム?、イスラエル放送協会のライヴ録音)

弦の響きが透明で・低音があまり協調されない分・爽やかな印象が強く、実にクレンペラーらしい演奏だと思います。第1楽章の第2主題はあっさりと歌われており、ロマンティックな要素より古典的な佇まいを感じさせます。テンポは全体に心持ち早めですが、第2楽章はバランス上速めの感じで・思い入れや粘りがあまり強くなくて・スッキリした味わいがあります。


○1968年ライヴ

マーラー:交響曲第9番

ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
(エディンバラ)

全体として曲に対して距離を保ち、感情ののめりこみを避けた・抑制された表現ですが、決して冷たいという感じではありません。テンポは中庸で・あまり揺れることがなく、淡々と歩みを進める感じで・全体として古典的な印象があります。バランス的に見ると中間2楽章がやや遅めに感じられ、これが全体を重めの印象にしているようです。第3楽章のロンド・ブルレスケのリズムの激しい場面でもクレンペラーは冷静で・決して激することがありません。第4楽章は旋律を息深く歌い上げ、抑制された古典的な美しさがあって聴かせます。


○1968年5月23日ライヴ

べートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン楽友協会大ホール)

68年定期公演はクレンペラーとウィーン・フィルの最後の共演となります。クレンペラーの演奏は低弦を抑えて・高弦の艶やかさを強調したような所があって、これはシューベルトには似合っていますが、ベートーヴェンには効果的とは言えないようです。全体にテンポがゆっくりとして、優美さを感じさえつつも・のっぺりとした表情でリズムの推進力をあまり感じさせません。生で聴くとスケールを感じさせるのかも知れませんが、このテンポで持たせるのはちょっとしんどい感じです。第1楽章の第2主題などは非常に優美な感じで、他の指揮者の演奏と比べても独特の個性を感じさせます。後半2楽章は前半と比べると感覚的にやや速めですが、反面、軽めにも聞こえるような感じです。第3楽章のピチカートのリズムに虚無的な表情が見られるのが面白いと思いました。


○1968年6月2日ライヴ

ブルックナー:交響曲第5番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン楽友協会大ホール)

クレンペラーらしいゴツゴツした朴訥な感触のブルックナーですが、一本筋が通った頑固な感じが興味深く感じられます。リズムをしっかり取って、テンポをあまり動かすことをしません。ウィーン・フィルの響きが渋くて、全体にゴチック様式の建築物を見るような質実剛健な印象です。第1楽章はウィーン・フィルの重厚な金管の響きが見事で、がっちりした造りの大聖堂と見る趣です。構成ががっちりしているところがクレンペラーの特徴でしょう。しかし、例えば第2楽章中間部などに、もう少し色調の変化を見せても良いかなという不満がしますが、全体に渋めの印象なのです。


○1968年6月9日ライヴ

マーラー:交響曲第9番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

素朴と云うか初々しいと云うか、何となくウィーン・フィルが曲に慣れていない印象がします。両端楽章は客観性を感じさせて、曲にのめり込む感じはなく、簡素でスッキリした流れを見せています。ロマン派交響曲の感覚で処理できる両端楽章はまだしも、意外なことにウィーン・フィルは中間2楽章ではたどたどしささえ感じさせると云うか、感触が荒削りでゴツゴツした感じがします。あるいは朴訥とかそっけなさと云うべきかも知れませんが、あるいはこれはクレンペラーの解釈なのでしょうか。両端楽章では古典的な佇まいを志向しているように思われますが、中間の第2・3楽章では反対に破綻の方向を示しているかの如きであり、クレンペラーの解釈にウィーン・フィルが付いていけなかったようにも感じられます。木管の響きに虚無的な味わいがするところは、生前のマーラーを知る世代の解釈の一端を聴く感じで興味深いと思います。


○1968年6月16日ライヴ

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン楽友協会大ホール)

テンポをゆっくりと取ってロマンの薫り高い名演奏です。クレンペラーらしいスケールの大きさと安定感があります。ウィーン・フィルの弦の優美さは筆舌に尽くし難く、その息の長い歌い廻しが印象的です。また低音を強調しないので、木管がよく通り、透明感が高い感じです。特に第1楽章が素晴らしいと思います。導入部の弦のリズムの刻みに・ある種の鬼気迫るものがあって、そのおかげで第2主題の優美さがより際立ってくるのです。第2楽章は前楽章と比べると感覚的にややテンポが速くなりますが、それがまた新鮮さを感じさせて、この楽章の存在感を高めているようです。演奏が終ったあと、クレンペラーが思わず「シェーン(美しい)」とつぶやく声が入っていますが、さもありなんと思わせる演奏です。


○1969年5月23日ライヴ

メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」

バイエルン放送交響楽団
(ミュンヘン、ヘラクレス・ザール)

オケの響きが透明で・木管が煌めくように輝き、高弦の澄んだ響きが印象的です。低音があまり強調されないので・軽い響きなのも素敵です。全体のテンポは遅めですが、テンポの取り方にせいか・叙情的で落ち着きのある演奏になっています。特に印象に残るのは中間二楽章です。まず第2楽章は通常よりかなり遅いテンポですが、じっくりした足取りで念入りに歌いこまれており・気品を感じさせます。確かに生き生きした感覚には乏しいところはありますが、リズムがしっかり取れているので・音のひとつひとつが息付いている感じがします。第3楽章も同じく・自然に備わった器の大きさが旋律の息遣いから感じられます。第1楽章はそれに比べるとオケが遅いテンポに慣れていないのか・まだエンジンが暖まっていないような感じを受けます。第4楽章はしっかりした足取りで・スケールの大きい出来です。なお終楽章はクレンペラーの編曲によるもの だそうで・通常のエンディングとはかなり異なります。


○1971年5月11日ライヴ

マーラー:交響曲第2番「復活」

アニー・フィンレイ(ソプラノ独唱)
アフルリーダ・ピッツ(アルト独唱)
ニュー・フィルハーモニア管弦楽団・合唱団
(ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール)

テンポは遅めで・じっくりと足を踏みしめるようで・悠揚迫らざるどっしりした雰囲気が聴き物です。特に両端楽章が感銘深く、この遅いテンポをオケがよく保ち、緊張感がああって・表情が引き締まっており、表現の彫りが深く・スケールが実に大きい出来です。旋律が息深く歌われ、その澄み切った叙情性が感動的です。熱くのめりこんだ表現ではなく、抑制された古典的な表現におもわれます。一方、全体から見ると第2・3楽章がバランス的に重く感じられ、この中間楽章のアイロ二カルな軽やかさが乏しく、同じような感じに聴こえるきらいがありますが、これもクレンペラーの意図があるかも知れません。あるいはそういうものにあまり興味がないのかも。


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