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クレンペラーの録音(1950年代以前)


○1947年12月4日ライヴ

メンデルスゾーン:序曲「フィンガルの洞窟」

アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ音楽堂)

オケの弦の響きが深くて柔らかく、ロマンティックなかにもどこかメランコリックな蔭が差していて、とても魅力的です。クレンペラーはゆったりとしたテンポで、じっくりと情景を描きたして、スケールの大きい見事な演奏に仕上がりました。


○1956年10月29日・30日

ブラームス:交響曲第2番

フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMIスタジオ録音)

これはクレンペラーの個性に関わる問題でしょうが・オケの低音をあまり強調せず・響きに濁りがなく透明感があること、旋律の歌い方が素直で・節回しに余計な思い入れを入れないことなどがあるようです。テンポは遅めですが、遅すぎると感じるほどではありません。ただし、このテンポだとスケールの大きさが形だけのように感じられます。第2交響曲のように明るい日差しを感じさせる曲はクレンペラーには向いているようですし、確かにフィルハーモ二ア管とのブラームスの四つの交響曲の録音のなかでは・この第2番が最も出来が良いようです。ただし、不満は依然として残ります。第4楽章はリズムが斬れて、オケの優秀性がよく分かりますが、いかんせん聴いた後の充実感が足りません。


○1956年10月29日・31日、11月1日、1957年3月28日

ブラームス:交響曲第1番

フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMIスタジオ録音)

テンポは全体として遅め。オケの響きが透明で・低音があまり効いていない感じの軽めの響きで、重量感に乏しいのが気になります。これはオケのせいと言うよりも・クレンペラーの持ち味なのでしょう。リズムは斬れているので・取り立ている間は不満を感じませんが、聴き終わるとどこか物足りない・薄味な感じがします。スケールは大きいが・中味が詰まっているような感じがしないのです。オケの旋律の歌いまわしは素直で嫌味がないですが、これだけテンポが遅いと・もう少し歌い回しにニュアンスと粘りが欲しいところです。こうなると両端楽章はこうした不満が残ります。そのなかで出来の良いのは第2楽章です。透明で伸びやかな弦がさわやかな叙情性を感じさせます。ただし、ここでも濃厚なロマンティシズムを感じさせるというよりは・サラリとした感触にとどまっているのです。


○1957年3月26日〜27日

ブラームス:交響曲第3番

フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMIスタジオ録音)

やや遅めのテンポですが・遅すぎるというほどでもありません。むしろフィルハーモ二ア管の弦が透明で、ドイツ的な重々しさがあまりないせいか・爽やかな印象さえあります。高弦が力強く、音楽に推進力が感じられます。曲へののめり込みを見せず・終始冷静の姿勢を崩さらにのがクレンペラーらしいところですが、ここでは音楽に熱気を感じさせる第4楽章の出来が良いと感じられます。しかし、一方で旋律の歌わせ方があまりに素直すぎて・ニュアンスに物足りなさを感じるところもなきにしもあらず。感触がサラリとし過ぎで・もう少しじっくりとした余韻が欲しい気がします 。


○1957年3月27日〜29日

ブラームス:交響曲第4番

フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMIスタジオ録音)

全体に同年録音の第3番と同じことが言えます。オケの響きが透明で・低音の効きが弱く、重量感がありません。ただし、オケの精度は高く、リズムは斬れていて・高弦は力強く聞かせます。しかし、旋律の歌いまわしが素直過ぎて・もう少しのニュアンスを求めたい気がします。どうも全体的に薄味のブラームスなのです。クレンペラーのフラームスの交響曲を聴いて感じるのは、四つの楽章の比重を等分に置いていて・どの楽章もおなじように聴こえて・全体がのっぺりとして・各楽章の個性が際立たないことです。そのため部分を聞くとそれほど不満がないのに、全体として感銘に至らないという感じなのです。クレンペラーのブラームスの四つの交響曲を出来の良い順番に挙げると、第2・第3・第4・第1の順でありましょうか。


○1957年3月29日−1

ブラームス:悲劇的序曲

フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMIスタジオ録音)

クレンペラーのブラームスの四つの交響曲は恰幅は良いものの・充実感はいまひとつでしたが、悲劇的序曲・大学祝典序曲ともに素晴らしい出来です。小曲なので・集中力が違うということなのでしょうか。オケの響きも心なしか線が太めに感じられます。交響曲では対象から少し距離を置いたような冷静さを感じましたが、ここでは見違えるような熱気を感じます。悲劇的序曲はテンポを遅めに取り・スケールが大きな造型です。高弦の力強い響きが効いており、緊張感のある仕上がりになりました。第2主題が情感豊かで、フィルハーモ二ア管の透明な響きが叙情的感銘を与えます。


○1957年3月29日ー2

ブラームス:大学祝典序曲

フィルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMIスタジオ録音)

同日の悲劇的序曲と同じく・これも素晴らしい出来です。テンポは遅めですが、特に前半のゆったりした流れのなかに・スケールの大きさが自然と滲み出ており、大家の芸だと感じ入ります。全体に緊張感が漲っています。


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