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カラヤンの録音(1979年1〜6月)


○1979年1月2日・3日

ドヴォルザーク:交響曲第8番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、EIMスタジオ録音)

骨太で・がっしりした構成感を感じさせ、交響曲のフォルムを強く意識させます。その点では61年ウィーン・フィルとのデッカ録音の方が伸びやかさと言うか・自由さでは勝る感じもしますが、ベルリン・フィルの低弦がよく効いていて・重量感とスケール感があって・これも見事な演奏だと思います。また金管の威力が第4楽章で発揮されていて、オケの機動力とあいまって圧倒的な迫力です。全体としてはテンポ速めでリズムをきびきび取った演奏ですが、第2楽章はテンポを遅く取って・印象が若干重い感じになっていますが、ここがこの演奏の要かも知れません。ここではカラヤンはドヴォルザークの土俗性よりは純音楽的な表現を目指しているように思われます。


○1979年1月4日ライヴ

シューマン:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

全体を速めのテンポで引き締めた力感と緊張感あふれる名演です。ベルリン・フィル の響きは渋く重量感があって、ドイツ風の浪漫的な香りが濃厚に漂ってきます。特に低弦の力強さがひときわ魅力的です。そのために正確なリズムから生まれる躍動感と・その推進力が際立つのです。四つの楽章を休息置かずに一気に通すこの曲では、各楽章の連携が有機的に絡み合い、交響詩的な高い密度が一貫して保たれています。第1楽章にはたたみ掛けるような迫力があって、中間楽章の叙情的な旋律にふっと安らぎの表情が浮かぶ時の表現の間のうまさ、しかもその部分を気を持たせるようにテンポを落とすようなこともせず・インテンポでサラリと・しかも十分に表現し尽くしているのです。表現のダイナミクスが大きく、なおかつフォルムが決まって揺らぐところがありません。内に凝縮する力を感じさせる・まったく正攻法の名演であると感じます。


○1979年1月22日・24日、2月22日・24日

マーラー:交響曲第4番

エディット・マティス(ソプラノ独唱)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

この交響曲のメルヒェン的な要素をよく表現した演奏だと言えます。ある意味では健康的な演奏ですが、ワルターの演奏と並んで大変好ましい演奏だと思います。第1楽章はゆったりしたテンポで伸びやかに旋律が歌われます。素朴さが失われずメルヒェン的な気分が自然と湧き上がってきます。第2楽章はテンポを心持ち早めに取った設定が第3楽章との関連のなかでこの楽章の意味を高めています。シュヴァルベのヴァイオリン・ソロもうまく、この楽章のアイロニカルな味わいを出しています。しかし、この演奏の圧巻は第3楽章です。ゆったりした流れのなかに清らかな気分が表出されています。ここではベルリン・フィルの弦のピア二ッシモの魅力が十二分に引き出されています。べとつかず・涼しい雰囲気のなかにロマンティックな気分がそこはかとなく漂っています。この楽章は緊張感の持続が難しいのですが、息の長い歌いまわしでじっくりとした流れを作っています。第4楽章はテンポをやや遅くして柔らかな雰囲気を醸しだしています。マティスが暖かい歌唱で好感が持てます。特に終結部の弱音を駆使したゆったりとした足取りは陶然とするような美しさです。


○1979年5月6日ライヴ

ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」

ルッジェロ・ライモンディ(フィリッポ2世)、ホセ・カレラス(ドン・カルロス)、ピエロ・カップチルリ(ロドリーゴ)
ミレルラ・フレーニ(エリザベッタ)、アグネス・バルツァ(エボリ公女)
ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団
(ウィーン、ウィーン国立歌劇場)

カレラスの歌唱は声に張りと艶があって・若々しいドン・カルロスのイメージによく合います。またカップッチルリのロドリーゴも素晴らしくて、第1幕第1場の二重唱は劇的に聴かせます。一方、ライモンディのフィリッポ2世は意外に軽めの印象で、アリア「ひとり寂しく眠ろう」はいまひとつ。女声陣ではバルツァのエボリ公女が彫りの深い歌唱で光ります。アリア「むごい運命よ」は迫力があって聴かせます。カラヤンの晩年のイタリア・オペラは暗く重めになっていく感じがありましたが、この79年での演奏ではその傾向はまだ強くは感じられません。いずれにせよ歌手中心の印象の強いヴェルディ中期のオペラに管弦楽の視点から一本筋を通したような確固としたものを感じさせます。


 

 

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