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カラヤンの録音(1978年7〜12月)


○1978年8月13日ライヴ

ヴェルデイ:レクリエム

ミレルラ・フレーニ(S)/アグネス・バルツァ(A)
ホセ・カレラス(T)/ニコライ・ギャウロフ(B)
ウィーン楽友協会合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

テンポは特別早いことはないのですが・リズムがキビキビと明確に取られているせいか・感覚的に早めに感じられます。力のこもった・簡潔で無駄のない造形で、ヴェルデイの音楽美を堪能させてくれます。ベルリン・フィルの弦は芯のある強い響き、金管も渋い光沢があり・力強く素晴らしい出来で、暗めの色調のなかに厳しい形式美が感じられて・それがフォルムを意識したカラヤンの行き方に実にぴったりと合っています。第2曲「怒りの日」での劇的表現は圧巻ですし、第5曲「神の小羊」も感動的です。独唱陣・合唱も充実しています。


○1978年8月15日ライヴ

ブルックナー:交響曲第8番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

この時期のカラヤンの早めのテンポで研ぎ澄まされた造形が素晴らしいと思います。しなやかに・流れるように刻々と移り変わる情景を・微妙に変化する色彩で描きあげていくうまさ、実に細かいところに工夫があるのですが、それを決して手管に感じさせないうまさは、ブルックナーの音楽の本質をよく押さえていて聴き応えがあります。ウィーン・フィルの弦が透明で・爽やかな風を運んでくるような軽やかさです。金管のぶ厚い響きを魅力的です。両端楽章のスケールの大きさは言うまでもありませんが、中間2楽章がほど良い位置を占めて実にバランスがよいのには感嘆させられます。第2楽章スケルツオのオケのダイナミックな動き、第3楽章の心地良い流れのなかに・しなやかに展開していく叙情的な美しさが印象に残ります。


○1978年9月15日〜20日

ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」

ホセ・カレーラス(ドン・カルロ)、エディタ・グルべローヴァ(テバルド)
ミレルラ・フレーニ(エリザベッタ)、ホルスト・ニッチェ(レルマ伯爵)
ホセ・ファン・ダム(修道士)、ピエロ・カップチルリ(ロドリーゴ)
アグネス・バルツァ(エボリ姫)、ニコライ・ギャウロフ(フィリッポ2世)
ルッジェロ・ライモンディ(宗教裁判長)
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、EMI・スタジオ録音)

テンポ良く歯切れの良いイタリア・オペラという感じではなく、テンポ遅めで音色暗めの情念のオペラという感じです。最初はそのテンポの遅さに多少抵抗を感じなくもないですが、その音楽の精妙さには感嘆させられます。カラヤンはこの遅いテンポから・予想もしなかったスケールの大きさと・感情表現の綾を引き出しているのです。感情表現の振幅が実に大きいのです。オペラと言うより・交響詩みたいな重さと言われようが、これは確かにヴェルディの音楽から引き出されているものなのです。カラヤンがこの録音にベルリン・フィルを起用した意図がそこにあると思います。録音はオケをややオンに取り過ぎているようにも思われますが、歌手をやんわりと包み込む感じと言えるかも知れません。このオケの表現力はカラヤン芸術の極地です。歌手は粒ぞろいですが、カラヤンのテンポの遅さによく応えていると思います。第1幕のドン・カルロとロドリーゴの二重唱などスケールが大きく実に素晴らしいと思います。バルツァのエボリ姫はとても斬れの良い歌唱でこれも聴かせます。


 

 

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