(戻る)

カラヤンの録音(1978年1〜6月)


○1978年1月ー1

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、EMIスタジオ録音)

全体として速いテンポで優美に流れるシューベルトです。また録音のせいもあると思いますが、ドイツ的な重い響きや低弦の強調を意識的に避けて、明るく透明な響きを作ろうと心がけているのがカラヤンらしいと言えます。外に向かって大きく開放されていくようなスケールの大きさがこの演奏にはあります。また予想外に思えたのは、ここでのカラヤンはインテンポを意識せず・かなり柔軟なテンポ設定を取っていることです。それによって、この交響曲を古典派というより・ロマン派の先駆けとしてそらえ、ブルックナーにも通じる香りを感じさせる仕上がりになっているのです。特に第2楽章はカラヤンらしい優美な表現です。また第4楽章はベルリン・フィルの合奏能力がフルに発揮されて・その迫力と推進力は申し分ありません。


1978年1月−2

シューベルト:劇付随音楽「ロザムンデ」〜バレエ音楽第1番・第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・フィルハーモニー・ホール、EMIスタジオ録音)

第1番・第2番ともに、やや早めのテンポでスケールを大きくとった演奏です。ただ、この曲が本来持っている素朴な性格からするとちょっと華麗に過ぎる感じもします。第1番「アレグロ・モデラート」では、前半にその感が強い ようです。しかし後半部は優美でしなやかな表現が魅力的で、カラヤンの持ち味が出ていると思います。第2番「アンダンティーナ」はやや早めのテンポでカラヤンらしい優美な表現で すが、中間部のアタックがちょっと強い感じがします。


○1978年1月4日ライヴ

マーラー:交響曲「大地の歌」

アグネス・バルツァ(アルト)
ヘルマン・ヴィンクラー(テノール)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

カラヤンは60年に「大地の歌」を演奏会で取り上げており、これは久々の演奏ということになります。滑らかで艶やかなマーラーを予想してしまいますが、予想に反して・ゴツゴツした印象があって・素朴で力強い表現だと思います。とても真摯な姿勢で曲に正対した感じがします。旋律をしなやかに歌うのを意識的に避けて、響きもむしろ原色的な厚みのある色合いを求めているようで、とにかく取り組みが真面目という感じがします。歌手に対する扱いの巧いカラヤンですから、静かな場面でのじっくりした歌唱の生かし方、大音響でも歌手の声を圧倒することがなく、歌曲集的な感じはなく・交響曲としての構成がしっかりと意識されていると感じます。歌手はふたりとも優秀です。バルツァは声もよく通ってシャープで斬れの良い歌唱を聞かせてくれます。ヴィンクラーは言葉をはっきりと発声する歌唱で・これも好感が持てる歌唱です。第1楽章「大地の哀愁に寄せる酒の歌」はオケのスケールの大きさがよく出た演奏ですが、色調を渋く抑えている感じです。これは第3楽章「青春について」でも同じことが言えます。ヴィンクラーの歌唱は素晴らしいと思います。第6楽章「告別」は沈痛な情感がよく表現されており、バルツァも好演。フィナーレのピアニシモは糸を引くような余韻があります。


○1978年3月22日ライヴ

ブラームス:ドイツ・レクイエム

グンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)
ヨセ・ファン・ダム(バス)
ウィーン楽友協会合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、ユニテル・ライヴ映像)

冒頭からテンポをゆっくりとって・弱音の響きが美しく叙情味が印象的ですが、第2曲や第4曲など勘所においてはダイナミックに鋭く締めて・緊張感が漲っています。その表現の振幅の大きさがさずがカラヤンです。独唱も合唱とよく溶け合い・その存在が突出することがありません。聴き手を大きく包み込く包容力があって・宗教曲らしい荘厳さが感じられます。


○1978年4月17〜24日、26日、29日、5月1〜4日−2

モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・ゾフイエンザール、英デッカ・スタジオ録音、全曲録音からの抜粋)

早いテンポでさっそうと進められますが、編成が大きめなので響きはやや重め。旋律を直線的に歌わせ、アクセントもちょっと強めなので、かなり意思的で挑戦的な感じが確かにします。この辺は好みが半ばするところかも知れません。


〇1978年5月1日ライヴ

ヴェルデイ:歌劇「イル・トロヴァトーレ」

ピエロ・カップッチッリ(ルーナ伯爵)、ライナ・(レオノーラ)、フィオレンツァ・コッソット(アズチェーナ)、プラシド・ドミンゴ(マンリーコ)、ヨセ・ファン・ダム(フェランド)他

ウィーン国立歌劇場管弦楽団・合唱団
(ウィーン、ウィーン国立歌劇場、ヘルベルト・フォン・カラヤン演出)

カラヤンの久しぶりのウィーン国立歌劇場登場で、大いに話題となった公演です。ドイツ圏のヴェルディですから、リズムは重めで色合いはやや暗めになりますが、内面的なドラマを細やかに描き出した格調高いヴェルディと云うべきですが、音楽の劇的振幅が大きく、聞かせ所での上手さはカラヤンならではです。歌手陣は粒揃いですが、特筆すべきはコッソットのアズチェーナの性格的な歌唱。声の張りが素晴らしく、聞かせます。次はカップッチッリの威厳ある歌唱と演技が見事。ドミンゴは勢いで聞かせるのではなくやや抑えた感じがありますが、繊細な表現がさすがです。カラヤンの意図がよく出ているのはカヴァイヴァンスカで、やや暗めの声質でレオノーラの内面的な心理を掘り下げて聞かせます。カラヤン演出はオーソドックスなもので、安心して見られます。


 

 

(戻る)