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カラヤンの録音(1977年7〜12月)

1977年11月:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いて来日公演。


○1977年8月27日ライヴ

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ベルリン・フィルの腹に応える低音の凄まじさ・高弦の清怜なピアニシモなどダイナミクスが実に大きくて、オーケストラの技量の限りを尽くしたような演奏です。絶頂期のカラヤン/ベルリン・フィルの素晴らしさはまさに息を呑まんばかりです。第1楽章の推進力は素晴らしく、一気に核心に斬り込んでいく勢いがあって衝撃的です。ただ聴き終わるとちょっとテンポが速くてスカッと割り切られた感じもなくはないですが、とにかく勢いに巻き込まれるような感じがします。この重量感ある第1楽章に続く第2楽章は、よくバランスが取れています。アイロニカルな味が出て面白いと思います。しかし、この演奏での圧巻は後半の2楽章です。ベルリン・フィルの弦が妖しく光り輝くようで・情念がうねるようです。音のダイナミクスが非常に大きく、ロマンティックな情感が時折歪み・引き裂かれているのが感じられます。この破天荒な感覚がまさにマーラーだと思います。カラヤンはスコアを正しく読みきり・マーラーの姿を正確に映し出していると感嘆せざるを得ません。


○1977年9月25日ライヴ

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

各楽器の絡み合いが明確に浮かび上がり・リズムの斬れの鋭さが素晴らしいと思います。色彩が飛び散るようんで・実にシャープな印象です。ストラヴィンスキーの音楽のザラザラした感触のディテールが鮮やかに表現されて、この曲がたった今生まれ出たかのような新鮮な衝撃があります。オケの響きは細身で軽い印象を受けますが、ベルリン・フィルの各奏者の卓越した技量と・カラヤンの鋭敏なリズム処理には感嘆するばかりです。


○1977年10月19日、1978年1月24日、2月26日、2月19日

ブラームス:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

この交響曲の叙情的な要素を追及した演奏であると思います。この時期のライヴにおいてはカラヤンはリズムを基調にして造形の彫りを深くして・この曲の古典的格調を生かす方向に行っていると思いますが、このスタジオ録音ではこの曲の叙情的な側面を強調して・繊細でロマンティックな演奏を心掛けているようで・かなり印象が異なります。そのためリズムの打ち込みが前面に出ることを意識的に抑えて、表面を滑らかにする方向に意識が行っています。比較的テンポは早めであるにもかかわらず・その早さをあまり感じさせず、むしろゆったりした印象を与えるのはそのせいでしょう。しかし、第1楽章はやや表情の彫りが浅くなってしまったように思われます。第2楽章はさらにそれが顕著で、やや細部にこだわり過ぎた感なきにしもあらず。後半の出来はいいと思います。第3楽章はリズムも軽やかで、透明な浪漫的世界を描き出しています。さらに第4楽章においてはベルリン・フィルの機動力がフルに生かされています。ここではリズムがよく斬れて、カラヤンの良さがよく発揮されています。


○1977年11月18日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

バーバラ・ヘンドリックス(ソプラノ)
へリア・アンゲルヴォ(アルト)
ヘルマン・ウィンクラー(テノール)
ハンス・ゾーティン(バス)
日本プロ合唱団・芸大声楽科
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京・杉並、普門館)

この時期のカラヤンらしい力強く・造形の引き締まった表現です。テンポは速めにして・リズムがしっかりと打ち込まれており、整然とした印象があり・音楽が生きています。リズムの推進力を基調にして密度高く、四つの楽章のバランスがよく取れています。第1楽章は強い意志を以って太い筆致で一気に描き上げたという力強さがあります。第2楽章ではリズムが作り出すオケの力動感が素晴らしいと思います。第3楽章は速めのテンポのなかでキラめくような音の流れが魅力的です。ここまでの音楽作りは整然とした感じが強いのですが、第4楽章はテンポに余裕を持たせて・表現に変化をつけています。決して煽る感じはないですが、劇的な表現です。独唱陣はなかなか優秀です。日本勢の合唱団は一生懸命なのですが・女声陣はややきめ粗く・男声陣は声量が弱い感じです。


○1977年12月5日・6日、1978年1月26日、2月13日・26日

レスピーギ:交響詩「ローマの噴水」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

ベルリン・フィルの響きが透明で、リズムと色彩が飛沫となって飛び散るようで実に魅力的です。カラヤンとベルリン・フィルの魔術を見るようで、とてもドイツのオーケストラとは思えません。特に中間の2曲「朝のトリトンの噴水」と「昼のトレヴィの噴水」のリズム処理の見事さには感嘆させられます。


 

 

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