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カラヤンの録音(1968年)


○1968年4月8日ライヴ-1

ベートーヴェン:「コリオラン」序曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(イースター音楽祭。ザルツブルク祝祭大劇場)

ベルリン・フィルの響きがベートーヴェンらしく重厚で、冒頭部の全奏にタメがあり緊張感にあふれた演奏です。特に低弦の動きを強調して曲全体に力動感を持たせています。テンポはレコード録音(65年)よりもかなり速目であり、より劇的な作りになっています。その一方で、このテンポであると第2主題に沈痛な感じが十分でないのは否めないようです。


○1968年4月8日ライヴー2

ベートーヴェン:交響曲第6番「田園」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(イースター音楽祭。ザルツブルク祝祭大劇場)

早めのテンポで一気に描いた勢いのある演奏です。したがって、絵画的な印象が強くなるようです。ベルリン・フィルの音色が渋いので・落ち着いた色調に感じられます。最初のうちはその駆けるような早いテンポが多少気にはなりますが、全体として見ると五つの楽章が連関し合った密度の高い演奏に仕上がっています。特に第2楽章は淡々として歌う音楽の流れが とても美しく感じられます。後半のドラマの盛り上げが見事で、第5楽章は素晴らしい自然讃歌となっています。


○1968年4月8日ライヴー3

ベートーヴェン:交響曲第7番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(イースター音楽祭・ザルツブルク祝祭大劇場)

63年のベルリン・フィルとのスタジオ録音より全体的に早めのテンポをとり、さらにリズムの斬れを強調した鋭角的な印象の強い演奏になっています。録音が響きをややデッドに録っているせいもあ りますが、トスカニーニ的な印象が強くなっているように思われます。ここでベルリン・フィルが聴かせるドイツ的な渋い響き・鋼の塊のように聴き手にぶつかってくる全奏の威力はたいしたものです。早いテンポだがリズムを深く打ち込んで、音楽が上滑りすることがまったくないのは素晴らしいと思います。特にその良さが出ているの が両端楽章で、リズムを基調にしたこの曲の構造を大胆と言えるほど鋭角的に表現しています。終楽章ではカラヤンは「洗練された美しさ」など眼中にないうようにさえ思える 激しさで、ディオニッソス的な感興に溢れており、観客は大いに反応しています。対照的に第2楽章アレグレットはこのテンポであるとややサラリとした印象を受けてしまいますが、バランス上仕方ないかも知れません。


○1968年8月25日ライヴ−1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

全体のテンポをかなり早めにとって、リズムの持つ推進力を全面に押し出した感じの演奏です。壮年期のカラヤンの力みなぎる演奏です。したがって、スケールはもちろん大きいのですが、第1楽章はダイナミクスが大きくて・やや威圧的なところがあります。私の「未完成」のイメージからするとちょっと外面的に曲をとらえているような感じがします。オケがウィーン・フィルでアタックがマイルドに出るので、多少中和されているようなところがありますが。第1楽章第2主題はカラヤンらしい優美さで印象に残ります。第2楽章は優美な流れがあって、こちらは素晴らしいと思います。


○1968年8月25日ライヴー2

ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「ジプシー男爵」序曲、皇帝円舞曲、アンネン・ポルカ、常動曲
ヨゼフ・シュトラウス:ワルツ「うわごと」
ヨハン・シュトラウスT:ラデツキー行進曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

晩年のカラヤンのワルツはテンポをゆったりととった優美な演奏でしたが、この時期のカラヤンの演奏はどちらかと言えばコンサート・ピースとして割り切ったような・テンポを早めにキビキビととった演奏です。いかにも壮年期のカラヤンらしいイナセな演奏だと思いますが、やや大柄で元気過ぎて・もう少し柔らか味が欲しい感じがします。こういうコンビになるとご本家だけにことさらウィーン風味を出そうなどということをしないので拍子抜けというところがあるようです。曲はいずれもカラヤンのお好みのものばかりです。出来栄えは「ジプシー男爵」序曲とアンネン・ポルカが良いと思います。リズムの扱いが実にうまいのです。皇帝円舞曲と「うわごと」はテンポは速めにで感触がサラリとし過ぎの気味がありますが、これは好みの問題かも知れません。


○1968年9月21日、23日、24日

ドヴォルザーク:チェロ協奏曲

ムスティスラフ・ロストロポービッチ(チェロ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

ベルリン・フィルの引き締まった硬質で力強く・やや暗めの弦の響きが、若きロストロポービッチの力強く太めのタッチのチェロ独奏によくマッチして、両者ががっぷり四つに組んだ熱演を聴かせます。特に第1楽章は太いタッチで一気に描いたような勢いがあって名演であると思います。リズム感がしっかりしており、旋律の歌い方にも力がこもっています。第2楽章も流れるようなテンポで緊張が緩むことがありません。第3楽章も素晴らしいと思います。前半のオケとソロの迫力ある掛け合いもいいのですが、中間部から終結部にかけての静かな部分でのしみじみとした深い味わいは絶品です。ここではちょっと暗めのベルリン。・フィルの音色が曲によく似合っています。


○1968年9月24日

チャイコフスキー:ロココの主題による変奏曲

ムスティスラフ・ロストロポービッチ(チェロ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム、イエス・キリスト教会、独グラモフォン・スタジオ録音)

カラヤンとロストロポービッチががっぷりと四つに組んだドヴォルザークの熱演とは違って、曲の性格から来るものであるわけですが・お互いを知り尽くし慈しみ合うような余裕のある語り口が魅力的です。第1主題や中間部の静かな変奏などテンポを取って、しみじみとした味わいがあります。簡潔でスッキリとした純音楽的表現なのですが、そこからスラヴ的な味わいもそこはかとなく湧き上がってくるようです。ベルリン・フィルの硬質で暗めの響きがロストロポービッチの太いタッチの独奏にもマッチし、スラヴ的な味わいのこの曲にも合っているように思われます。最終変奏は活気に満ちたテンポで一気に盛り上がります。


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