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カラヤンの録音(1960年)

 

1960年3月9日:ウィーン国立歌劇場でピッツェッティの歌劇「大聖堂の殺人」を指揮。
1960年4月2日:フィルハーモニア管弦楽団との最後の演奏会。
1960年6月12日:ウィーンのマーラー生誕100年祭でウィーン・フルとマーラー:大地の歌を演奏。
1960年7月26日:新しく建設されたザルツブルク祝祭大劇場で、ザルツブルク音楽祭40周年記念式典。


○1960年ライヴー1

ベートーヴェン:フィデリオ序曲

ウィーン国立歌劇場管弦楽団
(ウィーン、ウィーン国立歌劇場、全曲上演の一部)

芯のある力のみなぎった響き、贅肉をそぎ落とした直線的な旋律の歌い上げなど、壮年期のカラヤンらいい気力充実の演奏です。聴き手に意志を突きつけるような迫力があります。後年(65年)ベルリン・フィルとのスタジオ録音と比べれ洗練度では一歩譲るとは言え、ライヴならではの勢いと力強さには捨て難い魅力があります。


○1960年ライヴー2

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番

ウィーン国立歌劇場管弦楽団
(ウィーン、ウィーン国立歌劇場、全曲上演の一部)

これも素晴らしく気力充実した演奏です。前半の緊張感ある抑えた表現から後半の爆発的な歓喜のフィナーレまでの設計にまったく無駄がなく、熱い興奮のなかで第3幕へと流れ込んで行きます。


○1960年1月7日〜9日

チャイコフスキー:幻想序曲「ロミオとジュリエット」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

この曲のロマンティックな要素をここまで表現し尽くした演奏も少ないのではないでしょうか。ウィーン・フィルの弦の艶やかで美しいこと、情景の場面の息を長くとった切ないまでの情感の豊かさ、これ以上だとムード音楽みたいになりそうな寸前で踏みとどまったという感じです。一転して決闘の場面のオケのダイナミックな動きも劇的で、表現の幅が実に大きい見事な演奏です。


○1960年6月22日〜30日

R.シュトラウス:交響詩「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

曲冒頭からカラヤンの劇的表現力が素晴らしいと思います。テンポを速めに取って、ウィーン・フィルから軽めのタッチで・生き生きとした表情を引き出しています。 ダイナミックななかにも独特のユーモアが感じられます。各楽器が実に表情豊かで粋なのです。特に木管の巧さは特筆すべきものがあります。この洒脱さが「ティル」の場合は実に生きてくるのです。これはウィーン・フィルならではの名演奏という気がします。


○1960年9月

R.シュトラウス:楽劇「サロメ」〜七つのヴェールの踊り

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエン・ザール、英デッカ・スタジオ録音)

カラヤンの劇的表現力は発揮されており、そのリズム感といい・飛び散るような色彩といい、まことに素晴らしい演奏だと感嘆させられます。ウィーン・フィルの艶かさと・その旋律のしなやかな歌い方が官能的でゾクゾクさせられます。オペラの名場面としての劇的興奮に満ちており、是非全曲を聴いてみたいと思わせます。


○1960年9月21日-1

オッフェンバック:喜歌劇「天国と地獄」序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

響きが透明・かつ造形がシャープ。 スッキリと斬れのよい小粋な味わいの演奏です。チェロとヴァイオリンの掛け合いは旋律を息長くとって優美で魅力的です。中間部はテンポを落としてじっくりと旋律を聴かせてくれるのも嬉しいですが、歌い方は粘らず・あっさりとしているのが良いと思います。終結部のカンカン踊りはリズム感がよく楽しめます。


○1960年9月21日ー2

喜歌劇「軽騎兵」序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

響きが透明で・造形が引き締まっており、オケのダイナミックな動きが楽しめます。テンポの緩急を大きく付けた設計が巧いと思います。後年69年のベルリン・フィルとの録音が立派過ぎると思う人には、この若々しく引き締まった演奏の方 が好ましいかも知れません。


○1960年9月21日ー3

ワルトトイフェル:ワルツ「スケートをする人々」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

氷面を滑るような滑らかさ、スピンの軽やかな動きなどオケの動きが決して重くならないのが見事です。


○1960年9月22日

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」〜だったん人の娘たちの踊り・だったん人の踊り

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

カラヤンのコントロールのうまさと・フィルハーモ二ア管の優秀さがまざまざと分る演奏です。「娘たちの踊り」の旋律の優美さ・どこか懐かしさを呼び起こす歌い廻し、これに「男たちの踊り」の荒々しさと激しさを対照させて、オーケストラ・ピースの魅力満開です。そのリズム処理の巧みさは舌を巻くほどです。後年のベルリン・フィルとの演奏(70年)の演奏はさらに弦の艶やかが増していると思いますが、ここでのフィルハーモ二ア管の若々しさも魅力で引けはとらないと思います。


○1960年9月24日

シャブリエ:狂詩曲「スペイン」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、英EMIスタジオ録音)

カラヤンのスペイン情緒溢れるリズム処理の巧さが光ります。全体に小粋で洒落た雰囲気がある好演で、こうした曲でも決して手を抜かないところがカラヤンの偉いところだと感心します。


○1960年12月12日〜13日−1

リスト:ハンガリー狂詩曲第5番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

ゆったりと遅いテンポを深い哀しみの旋律を淡々とした表情で歌い上げます。ここではベルリン・フィルの暗めの引き締まった弦の表現が素晴らしいと思います。情感に溺れることのない・抑制の効いた渋い表現です。


○1960年12月12日〜13日−2

リスト:ピアノと管弦楽のためのハンガリー幻想曲

シューラ・チェルカスキー(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ダーレム・イエス・キリスト教会、独グラモフォン録音)

チェルカスキーのピアノの硬質の珠を転がすようなタッチが魅力的です。ベルリン・フィルの渋い響きもハンガリーの民族音楽の雰囲気に似合っています。ベルリン・フィルの引き締まった響きの上で、チェルカスキーのピアノが自在に動き回るのが面白く聴けます。


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