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カラヤンの録音(1951年−1955年)

1951年夏:バイロイト音楽祭で初めて登場。「ニュルンベルクのマイスタージンガー」と「ニーベルングの指輪」四部作を指揮。
1952年夏:バイロイト音楽祭で「トリスタンとイゾルデ」を指揮。
1953年2月14日:ミラノでオルフの「アフロデュテの勝利」を初演指揮。
1954年:単身来日して、NHK交響楽団を指揮。
1955年2月:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を率いてアメリカ演奏旅行。
1955年4月5日:ベルリン・フィルハーモー管弦楽団の芸術監督に就任。


〇1951年12月1日、1952年11月28日・29日、1953年7月21日・22日

バルトーク:管弦楽のための協奏曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

本曲の初演は1944年(クーセヴィツキー指揮ボストン響)のことですから、それから7年くらいしか経っていない当時の現代曲であったわけですが、フィルハーモニア管の細身で引き締まった鋭く響きがまだ生まれたばかりのこの曲の衝撃をまざまざと感じさせてくれる名演になりました。各奏者の技術が卓越しているので、次々と繰り広げられる名人芸が素晴らしい。カラヤンは早めのテンポでオケを煽り立てて、ダイナミックな音絵巻を展開します。


○1953年6月20日、7月15日

ベートーヴェン:コリオラン序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

テンポを早めにとった緊張感ある演奏ですが、響きはちょっと軽めでドイツ風の重厚な響きでないのは仕方ないところ。オケはとても優秀です。第2主題が流れるように優美で、慰めのような情感があるのがとても印象的です。


○1953年6月27日・29日、7月2日・16日

フンパーディンク:歌劇「ヘンゼルとグレーテル」〜前奏曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音、全曲録音からの抜粋)

冒頭のホルンの豊かな響きのなかからドイツの森のうっそうとした雰囲気が沸きあがってきます。それはオケの個性もあって決して暗くジメジメとはしていませんが十分に重厚な響きで、ドイツのロマンティシズムを感じさせる豊かで見事な演奏です。リズムの取り方も自在で、旋律がよく歌っている演奏です。


○1953年7月21日

ワルトトイフェル:ワルツ「スケートをする人々」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

仰々しく重い表現をせずに・淡々としたなかにもさりげなくワルツのリズムの軽やかさ、流麗な旋律の息の深さなどが心に残ります。カラヤンのセンスの良さが光る演奏です。こうした小品でもまったく手を緩めることのない態度には頭が下がります。


○1953年11月13日・15日・19日

ベートーヴェン:交響曲第4番

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

トスカニーニ的なテンポの早い演奏を予想していたら、案に反してテンポを遅めにとった実にオーソドックスな演奏でした。むしろフルトヴェングラーを意識したとさえ言えそうです。オケの響きも低音を強調してドイツ風を志向したものになっています。テンポに若干の余裕を持たせ、表情が柔らかく自然です。この曲の性格をよくつかんだ演奏です。前半の出来が良いと思いますが、特に第2楽章のゆったりと旋律を歌う流れの美しさは格別です。


○1954年2月12日ライヴ

ルーセンベリ:弦楽のための協奏曲第1番

RAIトリノ交響楽団
(トリノ)

スウェーデンの作曲家ヒルディング・ルーセンべリ(1892〜1985)が1946年に作曲した作品。カラヤンには珍しい現代曲ですが、印象的なのは弦の引き締まった響きと・しっかりした造型、そこから見えてくるがっしりした古典的とも言えそうな構成感です。カラヤンが曲をしっかり把握していることがよく分かります。不協和音もカラヤンにかかると実に美しく響きます。RAIトリノのオケも北欧的な暗めの渋い響きをよく出していて、リズムの斬れも見事なものです。


○1954年4月21日ライヴ

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

NHK交響楽団
(東京、日比谷音楽堂)

カラヤンが単身来日してN響を振った貴重な記録です。N響は金管がやや粗いのと、響きの豊穣さ・旋律を息深く歌うと云う点に置いて多少の不満はありますけれど、特に弦はカラヤンの要求に応えてなかなかの奮闘振りを見せています。カラヤンの解釈は、ダイナミクスを大きく取ってフォルテッシモの鋭角的な爆発など、この時期のスタイルをよく示しています。同時期のウィーン・フィルとの録音と比べても、カラヤンがオケに対して妥協したような風はまったく見えません。カラヤンがN響から懸命に引き出そうとしているのは、例えば第1楽章第2主題のような、この曲の抒情的な側面、あるいは第4楽章での息深いしなやかな歌い回しであることが、演奏を聴いているとよく分かります。その辺にこの時期のN響の課題があったと思います。リズムを強調した第3楽章は、N響がカラヤンの棒によく反応してなかなか良い演奏になっています。


〇1954年7月23日−1

マスネ:歌劇「タイス」〜瞑想曲

マノウグ・パリキアン(ヴェイオリン独奏)
フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングズウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

パリキアンのヴァイオリン・ソロは響きが清らかで、旋律の歌いまわしも粘らず・すっきりとして清潔感があります。フィルハーモニア管の弦も透明で美しく、ロマンティックと云うよりもやや小振りで引き締まった古典的な表現ですが、清冽な美しさが漂います。


〇1954年7月23日ー2

オッフェンバック:歌劇「ホフマン物語」〜ホフマンの舟歌

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングズウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

ゆったりとしたテンポで、フィルハーモニア管の響きが透明感があって美しく、涼やかな流れが楽しめます。


1954年7月24日

マスカー二:歌劇「カヴァレリア・ルステカーナ」間奏曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングズウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

カラヤンのお得意のレパートリーですが、後年のベルリン・フィルとの録音とも解釈に大きな相違はありません。強いて違いを上げればベルリン・フィルの弦の方がより艶やか と言えるでしょうが、フィルハーモニア管の弦も スッキリと清潔感があってこれも悪くありません。舞台転換のための音楽ですがひとつの完結した作品であるかのように、清らかで印象深く響きます。旋律の息を大きくとらえるカラヤンの演奏法がよく生きて います。なお、本録音ではホルン奏者のデニス・ブレインがオルガンを勤めてます。ブレインの父親は優秀なオルガン奏者であったそうです。


〇1954年11月6日

ポンキエルリ:歌劇「ジョコンダ」〜時の踊り

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングズウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

後年(70年)ベルリン・フィルの録音と比べると、スケールはやや小振りに感じられますが、解釈な基本的なところは変わりません。色彩感は十分で、細身に引き締まった表現が好ましく、愉しめる演奏に仕上がっています。


○1954年11月9−10日

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングズウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

テンポを速めにとった、颯爽とした若きカラヤンが聴けます。全体のテンポ設計もバランスがよく、緊張感が持続した演奏です。オケの精度も素晴らしいと思います。特に両端楽章はリズムが斬れて、早いテンポにも関わらず造形に一糸の乱れもありません。しかし、同じコンビでの第4交響曲などではあまり感じなかったのですが、やはりこのオケには低重心で重厚な真にドイツ的な響きが不足しているように感じられます。カラヤンは後年、フィルハーモ二ア管について「最初から技術的には完璧だったが、ついに満足することができなかった」と漏らしていますが、その気持ちが少し分るような気がします。カラヤンの骨太い構成感ある演奏がドイツ的な響きを求めているように感じられます。


○1954年11月17日ライヴ−1

ヘンデル:合奏協奏曲・作品6−12

ウィーン交響楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ウィーン響の「弦の引き締まった渋い響きが厳粛でゴシック的な様式感を醸しだしています。ピアノを使用していますが、スタイルはまったく古さを感じさせません。やや遅めのインテンポで形式を守った密度の高い演奏だと思います。


○1954年11月17日ライヴー2

チャイコフスキー:交響曲第4番

ウィーン交響楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

ウィーン響時代のカラヤンの貴重な記録です。これがウィーン・フィルならもう少し滑らかな音楽を作っただろうと思うところは確かにあります。そこにウィーン響の力量を感じることはありますが、カラヤンが凄いと思うのは・そういう点があってもオケの力量を見極めて・その力を十二分に発揮させているところだと思います。カラヤンはウィーン響に流麗さを多少犠牲にしても・正確なリズムを刻ませることに重きを置いているようで、カラヤンにしては楷書な感じがある演奏になっていますが、オケはカラヤンの期待に十分応えていると思います。ウィーン響は渋く暗めの音色で・ドイツ的な色彩の濃いオケですから、やや甘味を殺した感じになっています。第1楽章がやはり聴き物でテンポが遅めの分、線の太さと力強さを感じさせます。第3楽章のピチカートによるリズム処理も見事。第4楽章はオケを十二分に鳴らして力強く終わります。


〇1955年5月20日

ヨハン・シュトラウスU/ヨゼフ・シュトラウス共作:ピチカート・ポルカ

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

リズムが軽やかで、小粋な演奏に仕上がって愉しめる演奏です。


〇1955年5月25日・27日・7月7日

ヨハン・シュトラウスU:ワルツ「芸術家の生活」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

これは素敵な演奏です。ウィーン・フィルとの録音(46年)ではシンフォニックな趣に仕立てたのに、55年のフィルハーモニア管との三つのワルツの録音では、一転して実に正攻法の作りなのには驚かされました。リズムが実に軽やかで洒脱な味わい、スケールは小振りですが、造形がスッキリしてサラリとした味わいがとても好ましく、ほんのりウィーン情緒さえ感じさせます。


〇1955年7月7日−1

ヨハン・シュトラウスU:皇帝円舞曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

純音楽的な表現とでも云うか、リズムが実に軽やかで洒脱な味わい、スケールは小振りですが、そこがまた好ましく、素朴ななかに音楽することの喜びがあふれています。サラリとした味わいのなかにウィーン情緒があふれています。


〇1955年7月7日−2

ヨハン・シュトラウスU:ワルツ「美しく青きドナウ」

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

同日録音の皇帝円舞曲と同じことを書かねばなりませんが、純音楽的な表現で、リズムが実に軽やかで洒脱な味わい、スケールは小振りですが、そこがまた好ましく、素朴ななかに音楽することの喜びがあふれています。サラリとした感触のなかにウィーン情緒が良く出ていて、感心させられます。


〇1955年7月7日−3

ヨハン・シュトラウスU:喜歌劇「ジプシー男爵」序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

同日録音のワルツ2曲と比べると、ややスケールの大きい感じとなっています。オペレッタの序曲ということもあってか、、生き生きした表現を心掛けているようです。


〇1955年7月8日

オッフェンバック:喜歌劇「天国と地獄」序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

ロマンティックに・軽快に・ダイナミックにと刻々と変化する曲の魅力を最大限に引き出して、カラヤンの語り口の自在さが楽しめます。ここではやや小振りながらフィルハーモニア管の引き締まった表現が実に見事です。


○1955年7月9日−1

スッペ:喜歌劇「軽騎兵」序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

テンポ早めでスッキリした造形で、後年ベルリン・フィルとの再録音に比べれば小振りですが・こちらの方が曲本来の大きさに近いでしょう。軽みのあるリズムと・若々しく張りのある表情で、行進のリズムの歯切れよさ・哀切な主題の息の深さなど表現に幅があり・カラヤンの語り口の巧さが楽しめます。


○1955年7月9日ー2

シャブリエ:楽しい行進曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン・キングスウェイ・ホール、英EMI・スタジオ録音)

オケの動きが軽く、リズムが斬れて・軽快で、色彩が飛び散るように感じられます。


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