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カラヤンの録音(1946年−1950年)

1946年1月12日:戦後初めての演奏会をウィーン・フィルハーモニー管弦楽団と行なう。曲目はハイドン:交響曲第104番「ロンドン」、R.シュトラウス:「死と変容」、ブラームス:交響曲第1番。
1948年4月11日:フィルハーモニア管弦楽団との最初のコンサート。曲目はR.シュトラウス:「ドン・ファン」、シューマン:ピアノ協奏曲(リパッティ)、ベートーベン;交響曲第5番「運命」。


○1946年9月13日〜15日

ベートーヴェン:交響曲第8番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

速めのテンポでダイナミックに造形を斬り込んで行きます。若々しさと力強さを感じさせます。リズムが主体の愛らしい交響曲というイメージがありますが、この曲の剛直な構造を明らかにしています。四つの楽章がしっかり噛み合った印象ですが、特に前半2楽章の生き生きした表現が素晴らしいと思います。


○1946年10月

J・シュトラウスU:ワルツ「美しく青きドナウ」(1946年10月30日)・ワルツ「ウィーン気質」(1949年10月24日・11月10日)・ワルツ「芸術家の生涯」(1946年10月30日)・喜歌劇「こうもり」序曲(1948年11月30日)・喜歌劇「ジプシー男爵」序曲(1946年10月29日・30日)・皇帝円舞曲(1946年10月30日)
ヨゼフ・シュトラウス:ワルツ「天体の音楽」(1949年10月18日)・ワルツ「うわごと」(1949年10月24日)・

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

ちょっとシンフォニックなシュトラウスと言う感じです。リズムが明確で・造形がシャープなので、ちょっと硬い感じがします。もう少しふっくら柔らかくて・遊ぶところがあればと思いますが、その意味で真面目に音楽してるわけです。このなかでは「芸術家の生涯」・「天体の音楽」・「うわごと」などはカラヤンの得意曲でもあり、スマートで美しい演奏です。リズムが軽やかで重くならないのです。「こうもり」序曲はコンサート式に割り切った演奏ですが、表情の細やかさがあって・いい味わいです。


○1946年10月18日・19日

モーツアルト:交響曲第33番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ブラームス・ザール、英EMI・スタジオ録音)

全体にテンポが速く・フォルムへの意識が強いのはこの時期のカラヤンの特徴です。シンフォニックで線が明確なので、もうちょっと柔らかさが欲しいところです。しかし、後半2楽章はリズムに活気があって、なかなか出来が良いと思います。


○1946年10月21日・22日

モーツアルト:セレナーデ第13番「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ブラームス・ザール、英EMI・スタジオ録音)

録音のせいか・高弦の線がきつい感じがするせいか・この小交響曲的構成の曲のシンフォニックな一面を強調した感じに聴こえます。全体にテンポはちょっと早めで・フォルムへの意識が強いので、もうちょっと遊び心が欲しい感じがします。


○1946年10月21日−2

モーツアルト:歌劇「フィガロの結婚」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ブラームス・ザール、英EMI・スタジオ録音)

カラヤンの解釈はトスカニーニ的に突っ走る感じで、これは若い時からあまり変っていないようです。テンポ早過ぎという向きも多いと思いますが、スタイルが決まっていて・ここまでくれば小気味の良ささえ感じます。リズムが斬れて表情が生き生きしています。


○1946年10月23日

モーツアルト:歌劇「後宮からの逃走」〜コンスタンツェのアリア「あらゆる苦しみが待ち受けていても」

エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ独唱)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ブラームス・ザール、英EMI・スタジオ録音)

まずシュワルツコップの歌唱が素晴らしいと思います。セリムの脅しに対して・どんな苦痛も死も恐れないと歌うコンスタンツェの強い意思を見事に表現しています。言葉遣いが明確で、カラヤンの見事なサポートと相まって、その線の明確な感情表現が新しいスタイルの到来を感じさせて・とても鮮烈に感じられます。


○1946年10月28日・29日

チャイコフスキー:幻想序曲「ロミオとジュリエット」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

カラヤンのドライヴが実にうまく、曲の盛り上げがドラマティックで素晴らしいと思います。戦いの場面のダイナミックな迫力・愛のシーンと弦の美しさなど、こうした描写音楽でのカラヤンの表現力は緻密かつ柔軟です。ウィーン・フィルのちょっと暗めの響きも魅力的です。


○1947年11月3日〜6日、12月10日〜12日、14日

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

エリザベート・シュワルツコップ(S)/エリザベート・ヘンゲン(A)
ユリウズ・パツァーク(T)/ハンス・ホッター(Br)
ウィーン楽友協会合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

冒頭から気合いが入っていて・若きカラヤンの覇気を感じさせます。早めのテンポでリズムを明確にとって、聴き手をぐいぐいと引っ張っていきます。特にウィーン・フィルの高弦の力強い旋律線は無駄を削ぎ落としたようにシャープで、この時代の演奏としてはまったく目が覚めるような鮮烈な印象を与えたと思います。特に前半の2楽章が素晴らしい出来だと思います。第2楽章もリズム感がオケのダイナミックが動きが魅力的です。第3楽章はちょっとリズミカル過ぎで、このテンポだと曲の流れに身を任すとはいかないかも。もうちょっとテンポ遅めの方がいいようです。歌手は粒揃いで・声楽の扱いのうまい人だけに第4楽章も素晴らしい出来です。特に前半の曲の論理展開には息をもつかせないところがあります。


○1948年4月9日、10日

シューマン:ピアノ協奏曲

ディヌ・リパッティ(ピアノ独奏)
フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、アビー・ロード第1スタジオ、英EMI・スタジオ録音)

翌日4月11日にロイヤル・アルバート・ホールで、フィルハーモニア管弦楽団との最初のコンサートが開かれました。この録音はそれに先立つもので・フィルハーモニア管との初セッションということです。リパッティのピアノは硬質のクリスタルな響きが魅力的で、古典的な引き締まった造形で・カラヤンとの相性の良さを感じさせます。濃厚なロマン性よりは澄み切った叙情性を感じさせます。このコンビの良さは清々しい流れが実に美しい第2楽章によく現れています。第3楽章はカラヤンとの息もよく合って・活気がある見事なフィナーレです。


○1948年11月4日〜6日、8〜10日、1949年1月21日

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

ウィーン・フィルの渋い暗めの色調が曲想にマッチしています。カラヤンのこの曲の解釈は生涯通じて大きく変化した感じではないですが、この録音ではオケの色合いが渋めの分、甘味が抑えられて淡々とした味わいにななり・その代わり線の太い 印象が強まっているようです。インテンポで造形がスッキリと押さえられており、第1楽章第1主題も伸びやかで粘ったところがありません。第4楽章も感傷にひたるのではなく・客観的に抑えた表現です。若きカラヤンのコントロールのうまさが実感されます。


〇1948年11月6日

プッチーニ:歌劇「ラ・ボエーム」〜「私の名はミミ」、歌劇「ジャン二・スキッキ」〜「私のお父さん」

エリザベート・シュワルツコップ(ソプラノ独唱)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会ブラームス・ホール、英EMI・スタジオ録音)

シュワルツコップの声は、若々しく透き通って美しい。スタジオでのアリアだけの歌唱なので、やや絵画的な印象がしますが、心を込めて情感豊かに歌っています。ただ「ジャン二・スキッキ」のラウレッタのアリアはテンポがゆっくり過ぎて、ややムーディな印象がします。「ボエーム」のミミのアリアでは、カラヤン指揮のオケが旋律をよく歌っています。


○1948年11月11日、15日〜17日

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

若きカラヤンの力漲る名演だと思います。当時フルトヴェングラー手中にあったウィーン・フィルを指揮して、その個性の違いを主張します。速いテンポでダイナミックかつ大胆に造形を切り込んでいきます。全体のコンセプトは62年のベルリン・フィルとの演奏に共通するものがありますが、この演奏でもリズムを主体に前進する力を感じさせ・その引き締まった造形が印象的です。特にウィーン・フィルの力強く渋い色調の高弦が素晴らしいと思います。


○1949年11月7日・8日

モーツアルト:クラリネット協奏曲

レオポルド・ウラッハ(クラリネット)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ブラームス・ザール、英EMI・スタジオ録音)

名手ウラッハとの共演は期待されますが、しっかりとリズムをインテンポに刻んで・造形が明確なカラヤンの音楽とは若干相性がよろしくないようです。構成がきちんとしているのはいいのですが、モーツアルトではもう少し柔らか味と遊びが欲しい気がします。そうすればソロの自由さがもっと生きたでしょう。ウラッハの良さは第2楽章のゆったりした旋律によく出ています。


○1949年10月20日・26日、11月10日

モーツアルト:交響曲第39番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、英EMI・スタジオ録音)

この交響曲はカラヤンの体質によく合っているようです。リズムを明確に速めに取って・造形をシャープに描いていきますが、古典的な趣がよく出ています。その行き方はトスカニーニに確かに近い感じがします。感触が新しいのです。両端楽章のスケールの大きさが見事です。 第1楽章は冒頭から力強い響きで・引き締まった表現。第2楽章はムーディーに甘くならず・淡々として美しい表現。第3〜4楽章はリズムの斬れが良く、聴き応えがあります。


○1950年11月2日、3日、6〜9日、13〜16日、20〜21日ー2

モーツアルト:歌劇「魔笛」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン・ムジークフェライン・ザール、英EMI・スタジオ録音、全曲録音からの抜粋)

スケールは大きくはないが、よくまとまった見事な演奏です。テンポをゆっくりと抑え目にとった序奏は重くなく荘重に感じられます。展開部に入ってからは一層見事です。ウィーン・フィルの木管がじつに美しく響きます。テンポを急くことなく、柔らかでふくよかな旋律の歌わせ方が魅力的です。


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