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カラヤンの録音(1938年−1945年)

1937年6月1日:ブルーノ・ワルターの招きにより、ウィーン国立歌劇場にデビュー。「トリスタンとイゾルデ」を指揮する。
1938年4月8日:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団を始めて指揮。曲目はモーツアルト:交響曲第39番、ラヴェル:「ダフニスとクロエ」、ブラームス:交響曲第4番。
1938年10月21日:ベルリン国立歌劇場で「トリスタンとイゾルデ」を指揮。空前の成功を収め、「奇跡のカラヤン」と呼ばれる。


○1938年12月9日

モーツアルト:歌劇「魔笛」序曲

ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、独ポリドール・スタジオ録音)

カラヤンの初レコーディングです。この9日後の12月18日にベルリン国立歌劇場でグスタフ・グリュンゲルト演出による「魔笛」全曲上演がカラヤン指揮で行われます。この演奏でも若きカラヤンのフレッシュな感覚が楽しめます。スッキリした近代的な解釈で、展開部に入ってからのリズム感が心地良く・決して重くならないのが魅力です。ベルリン国立歌劇場のオケは低弦を効かせたドイツ的な味わいのオケで演奏水準も高いのがよく分かります。


○1939年2月

ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲

ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、独ポリドール・スタジオ録音)

解釈としてはトスカニーニに近い感じがしますが、ヴェルディのスタイルをつかんでいることにまず感心。テンポを速めに取って・簡潔で力強い表現です。繊細な主題の表現も見事で、表現に幅があってダイナミックです。訪販部の盛り上げとリズムの斬れも見事で、オペラ指揮者としての若きカラヤンの才能を実感させます。


○1939年4月15日

チャイコフスキー:交響曲第6番「悲愴」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、独ポリドール・スタジオ録音)

若きカラヤンとベルリン・フィルとの初録音です。前日(14日)にベルリン・フィルとの2度目の演奏会でこの曲を取り上げています。近代的センスを持ったスッキリした演奏で、「トスカラヤン」とも呼ばれた当時のカラヤンのスタイルを思い起こさせます。しかし、もちろんこれはトスカニーニの模倣などではありません。若書きではありますが、歌いべき所をしっかり歌い、後年の色彩的で雄弁なカラヤンのチャイコフスキーのスタイルの原型がここに見られます。カラヤンの「悲愴」の基本的な解釈は大きく変化していないこともよく分かります。第1楽章の木管の扱いなどはもう少し繊細な扱いをして欲しいと思うところはあります。後年のカラヤンのようにダイナミクスが大きくないのは録音のせいもあるのでしょう。それにしてもフルトヴェングラー時代の重く渋いドイツ的な色彩のベルリン・フィルからこれだけの色彩感とリズム感のある演奏を引き出すことができだだけでも、若きカラヤンの才能は歴然としていると言うべきでしょう。


○1940年3月

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、独ポリドール・スタジオ録音)

同時期のフルトヴェングラーの録音と比べても、オケの音色が別物のように違います。重々しいところがなく・透明でフレッシュな感覚があります。そこにベルリン・フィルの順応性の高さが現れているようです。若きカラヤンのスタイリッシュな感性が生かされた好演で、今聴いても全く古さを感じさせません。解釈としても後年のカラヤンと基本的に相違はありませんが、純音楽的な表現に重きを置いていて、特に第2楽章の叙情的な美しさにカラヤンの特質が良く出ていると思います。例えば第1楽章第主題や第2楽章においてリズムを粘らせずサラリと歌わせて、旋律の美しさを自然に生かしているところにうまさが出ています。第3・4楽章のリズム感の良さ、オケの機能性をよく引き出したカラヤンの手腕の素晴らしさが証明されています。


○1942年10月

ロッシーニ:歌劇「セミラーミデ」序曲

トリノ・イタリア放送交響楽団
(トリノ、独ポリドール・スタジオ録音)

若き日のカラヤンがイタリアのオケを振った珍しい録音ですが、演奏は非常に充実しています。オケの響きがクリアで明るく、伸びやかに旋律が歌われます。リズムは斬れていて、とてもドイツの指揮者が振っているとは思えない見事なロッシーニです。確かにトスカニーニの演奏に通じるものを感じさせますが、そのスタイルをよくここまで自分のものにしたと思わせます。


○1943年9月6〜11日

ブラームス:交響曲第1番

アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(アムステルダム・コンセルトヘボウ楽堂、独ポリドール・スタジオ録音)

オケの反応がやや遅めで・リズムが重く、旋律の歌い方に独特の粘りがあります。当時の常任であったメンゲルベルクの個性がオケに強く反映しているということでしょうか。テンポと言い・旋律の歌いまわしといい、何となくカラヤンの本意でないような感じ もします。特に第1楽章は後年のカラヤンのイメージからするとかなり遅めでダイナミクスの変化も抑えられている感じですが、良く言えば穏当な表現であり・ロマン性が高いといえるかも知れません。出来がよいのは第2楽章で、両者の個性が折り合ってロマンティックな情感のある美しい深みのある表現に仕上がっていると思います。第4楽章ではカラヤンがオケを引っ張りに掛かっている様子が見えますが、やはり表現としては重い感じです。若き日のカラヤンのスタイリッシュな感覚が生かされず、なんとなく指揮者とオケが一体になり切れていないもどかしさを感じます。


1943年9月13日

ウェーバー:歌劇「魔弾の射手」序曲

アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(アムステルダム・コンセルトヘボウ楽堂、独ポリドール・スタジオ録音)

カラヤンはテンポを早めにとって・近代的でフレッシュな感覚 の演奏を志向していると思いますが、オケはの響きは濃厚な感じがします。弦は柔らかですが・ポルタメント多用なのがメンゲルベルク時代のこのオケの個性だと思います。カラヤンはその個性をよく生かしてロマンティックに演奏に仕上げています。特に後半からの劇的な盛り上げは見事で、若き日のカラヤンの卓越したセンスがよく分かります。


○1943年9月15日

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番

アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
(アムステルダム・コンセルトヘボウ楽堂、独ポリドール・スタジオ録音)

オケの高弦のボウイングが特徴的で・くすんだ音色で古風で濃厚な味わいがします。これがベルリン・フィルならカラヤンはもう少しテンポ早めにシャープな動きを要求しただろうと想像しますが、ここではアムステルダムのオケの個性を生かして・前半のテンポをゆったりめに抑えて・後半に一気に緊張を開放していくロマンティックなやり方を取っていて・ここではそれが成功しています。この辺にオケの個性を見定めたカラヤンの順応性を見る思いがします。


○1945年5月

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、ドイツ帝国放送協会大ホール、放送用スタジオ録音)

まず聞いて感じるのは、スタイリッシュな造形とリズムの推進力を感じさせる60年代の演奏と比べるとテンポが遅めで・かなりオーソドックスな印象を与えることです。そのような印象はテンポが遅めだということだけでなく、リズムの刻みを前面に強く押し出さないことから来ているようです。ここではドイツのトスカニーニと言われたようなイメージはあまり聞き取れません。しかし、インテンポで旋律線を明確に浮かび上がらせて、各楽器の音色個性をしっかり描き分けている手腕はさすがに巧いと思います。出来は音楽に勢いのある両端楽章が良いと思います。


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