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ゲルギエフの録音 (2001年〜2010年)


○2001年ライヴ

シューマン:ピアノ協奏曲

マレイ・ぺライア(ピアノ独奏)
フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・フェスティヴァル・ホール)

ペライアとの興味深い組み合わせで期待しましたが、ペライアとの表現が微妙に食い違った感じで・出来としてはいまひとつの感あります。ペライアは微妙なリズムの揺れと繊細な色彩でシューマンのロマン性をよく表現して・悪い出来ではないのですが、ゲルギエフはどちらかと言えばリズムを明確に切って直線的に進める感じです。もう少しソリストを自在に泳がせる感じにできれば良かったと思いますが、何だかドライに伴奏しているようで・最後まで両者の表現が噛み合っていない感じを受けます。


○2001年9月19日〜21日ライヴ

ショスタコーヴィチ:交響曲第7番「レニングラード」

キーロフ歌劇場管弦楽団と
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団の合同オーケストラ
(ロッテルダム、デ・ドゥーレン、蘭フィリップス・ライヴ録音)

録音のせいもあると思いますが、ダイナミクスをかなり大きくとっており、ピアニッシモの表現が徹底的に追及されており、祈りや抒情性が優った演奏であると思います。もちろん第1楽章のボレロ風中間部などダイナミックな表現に不足はないのですが、第3楽章の内面に沈み込むような祈りの感情など、むしろ静謐な印象が強い気がします。ゲルギエフのこの曲に対するイメージは、ここにあるのでしょう。


○2002年6月30日ライヴ

ショスタコービッチ:交響曲第5番

キーロフ歌劇場管弦楽団
(フィンランド、ミッケリ、ミッケリ・コンサート・ホール、フィリップス・ライヴ録音)

弦の歌い廻しがとても滑らかです。透明で美しい響きで、角が取れてまろやかに感じられます。叙情的な要素が強く、全体に祈り・あるいは慰めのような感情が強い感じです。特にその特徴は第3楽章に強く出ています。その反面、第1楽章前半や第4楽章前半ではリズムの鋭角的な表現が弱い感じで、聴き手の心に突き刺さるような鋭さに欠けるところがありますが、これは仕方がないところです。第2楽章も諧謔味という点において弱い感じがします。しかし、この曲の場合はしばしば聴き手に威圧的に迫るような表現になり勝ちであると思いますが、このゲルギエフのように叙情的な側面を強調することもできるという点で、この曲の解釈の可能性を教えられることが多々ある演奏だと感じます。


○2002年8月10日ライヴ

プッチーニ:歌劇「トゥーランドット」(ルチアーノ・ベリオによる補綴版)

ガブリエーレ・シュナウト(トゥーランドット)
ヨハン・ボッツァ(カラフ)
クリスティーナ・ギャラードドマス(リュー)他
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ルチアーノ・ベリオによる補綴版は、時に響きが新し過ぎに感じることもありますが、最終幕をピアノで締めるアイデアは、この作品の寓話的な意味を生かすうえでも新鮮だと思います。実は大した根拠もなくゲルギエフはドライで鋭いアプローチをしてくるかと予想していましたが、リズムが意外に重めで、線が太いタッチのロマンティックな処理をしていると感じます。演出は流行りの文明批判的な要素をあまり強調せず、メルヒェン的な線に留めているように思われました。全体的にリズムが重めなので、ピンポンパンのリズムは軽妙さに欠けるところがありますが、これは全体の演出コンセプトに係わることであるのかも。歌手は粒揃いで、ゲルギエフの要求によく応えた歌唱です。


○2002年11月20日ライヴー1

チャイコフスキー:交響曲第3番「ポーランド」

NHK交響楽団
(東京、サントリー・ホール)

斬れの良いリズムでシャープな造形の演奏を聴かせます。第1楽章展開部や第5楽章ポロネーズなどピチピチしたリズムの活きの良い演奏を聴かせて、いつものN響きとは異なる響きがサラリとした軽い味わいを聴かせます。中間部はリズムを抑えて抒情的にしっとりと落ち着いた色合いに仕上げました。この対照が利いてします。ことさらに民族臭を強調することなく、感触はサラリとしていますが、チャイコフスキーのゴージャスな音の饗宴が楽しく、ゲルギエフのコントロールの卓越さがよく分かります。


○2002年11月20日ライヴー2

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「春の祭典」

NHK交響楽団
(東京、サントリー・ホール)

テンポを速めにより、シャープで細身の響き、リズム感を前面に押し出し、その鋭角的な旋律線の描き方が刺激的です。いつものN響と違ってその響きの色合いが明るく軽く感じられ、そこにゲルギエフとN響の相性の良さが出ているようです。第一部・冒頭部からテンポが速く、音楽を一筆描きしたような推進力があり、曲が進むにつれて音楽が熱くなって行き、第2部は圧倒的。N響の高弦の斬れの良さ、管楽器も力演。


○2002年11月24日ライヴー1

チャイコフスキー:弦楽セレナード

キーロフ歌劇場管弦楽団・NHK交響楽団・混成オケ
(東京、東京国際フォーラム)

大編成・混成オケのため響きはかなり厚めで、そのせいかテンポも遅めでリズムが重く、旋律の彫りが鮮明ではありません。冒頭からじっくりと丁寧に表面を整えたというか、互いの響きの混ざり具合を確認し合っているという感じがあります。ワルツなどトロリと甘い感じになっていて、良く言えばロマンティックということになるのかも知れません。とにかく音楽の生気が感じにくく、ゲルギエフでこういう生ぬるい音楽を聴くとは思わなかったというのが正直なところ。


○2002年11月24日ライヴー2

ショスタコービッチ:交響曲第7番「レニングラード」

キーロフ歌劇場管弦楽団・NHK交響楽団・混成オケ
(東京、東京国際フォーラム)

前半のチャイコフスキーがいまひとつだったので心配しましたが、ショスタコービッチの方はオケも力演でなかなか聴かせる演奏になりました。混成オケのでかい身体を持て余すことなく、リズムが斬れた重量感ある響きで、第1楽章のボレロの高揚していくオケのダイナミックな動き、第2楽章中間部など、なかなか良い出来でした。しかし、恐らくゲルギエフの本領は第1楽章後半部あるいは第3楽章での抒情的な部分によく現われているようです。ここでは大編成オケの弦の厚い響きが音楽が持つピリピリした神経質的な部分をマイルドにする作用をしているようで、これも良かったと思います。特に第3楽章はじっくりとしたテンポで切々と訴える哀しみの旋律が聴き手の心に突き刺さるようです。この楽章は心に残ります。第4楽章での引き締まった弦の動き・輝かしい金管が素晴らしいと思います。ショスタコービッチの訴えを血が滲むような生々しさで描くのではなく、じゅっくりと回想風に描いているところに時代を感じます。


○2003年ライヴ−1

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

ヴァディム・レーピン(ヴァイオリン独奏)
キーロフ歌劇場管弦楽団
(ヴィースバーデン、クアハウス、ラインガウ音楽祭)

オケの音色はクリアで色彩的でいわゆるドイツ的な響きではないにしても、テンポがしっかり取れていてフォルム感覚がある申し分なく優れた演奏であると思います。逆に言えばとても旋律線がクリアなのでとても聞きやすいのです。リズムが逸るところがまったくなく・足が地にしっかりと付いた歌わせ方で、音楽が落ち着いていて・味わい深く感じられます。テンポ設定が適切で、三つの楽章の連関がしっかり取れていると感じます。ゲルギエフのサポートはもちろんですが、レーピンの独奏も派手さを抑えたなかに真摯さが伝わってくる演奏で、まさにオケとソロが一体となった演奏だと思います。このコンビの良さは特に第1楽章に良く出ていますが、手綱をしっかりと締めてテンポを抑えた第3楽章もなかなかのものです。


○2003年ライヴ−2

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」

キーロフ歌劇場管弦楽団
(ヴィースバーデン、クアハウス、ラインガウ音楽祭)

ゲルギエフとキーロフ管のコンビの得意曲だけに出来が良いのは当たり前ですが、いつもながら色彩的かつリズムが斬れていて、オケのショーピースとして実に見事なものだと思います。劇場オケだけに場面の描き分けが実に的確なのです。火の鳥が現れる場面でのリズムの軽やかさ、あるいはカスチェイの凶悪な踊りでの激しいリズムまで、音楽のダイナミクスが実に大きく、その表現力に感嘆させられます。


○2003年ライヴー3

ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲

キーロフ歌劇場管弦楽団
(ヴィースバーデン、クアハウス、ラインガウ音楽祭)

当日のアンコール曲目ですが、爆発的な歓喜の表現が実に素晴らしいと思います。


○2003年11月22日ライヴ

マーラー:交響曲第3番

ズラータ・ブルィチェワ(アルト独唱)
キーロフ歌劇場女声合唱団
東京FM少年合唱団
キーロフ歌劇場管弦楽団
(東京、NHKホール)

テンポ早めで流麗な音楽造りで、音響的には申し分なく楽しませてくれるマーラーです。第1楽章はリズムが斬れていて・音楽はダイナミックで力感があります。金管はよく鳴っていますし、弦も素晴らしく・このオケの優秀なことが良くわかります。第2楽章は静かに流れるように美しく、第3楽章はユーモアある皮肉な表情が生きています。しかし、全体的にスポーツ的快感にとどまっていて・楽観的な印象の演奏です。マーラーの持つ分裂的な底深き情念を裂け目を感じさせてくれません。響きがまだまだ単調なのです。粘りのあるくらい響きを交錯できていません。第7楽章は明るく流れるような美しさですが、サラリとして粘りがありません。メルヒェン的な郷愁で曲を楽観的に捉えているような感じです。第5楽章はブルィチェワの美しい声がよく通ります。


○2006年6月2日ライヴ

チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」

ウラディミール・ガロウーツィン(ゲルマン)、タチアナ・ボロディナ(リーザ)
イリナ・ボガチョヴァ(伯爵爵夫人)、ニコライ・プツィリン(トムスキー)
ウラディミール・モレツ(イェレツキー)、エカテリーナ・グヴァノヴァ(ポリーナ)
マリンスキー劇場管弦楽団
(サンクト・ペテルブルク、マリンスキー劇場)

ゲルギエフの音楽作りが感情表現が実に細やかで、細かく震える感情の襞が見えるようで素晴らしい出来です。それがチャイコフスキーにとてもよく似合います。歌手も優れており、特に女声陣が優れていて第1幕第2場のリーザとポリーナの2重唱はとても透明で美しい歌唱が印象に残ります。ガロウーツィンのゲルマンはカードに憑かれた男の狂気をよく表現しています。


○2006年11月29日ライヴー1

ヴェルディ:歌劇「運命の力」序曲

マリインスキー劇場管弦楽団
(サンクト・ペテルブルク、マリンスキー劇場・新コンサートホール落成コンサート)

イタリアのオケのヴェルディのようなカンタービレのしなやかさとは違って、やや線が太く・ずっしりと質量のこもった力強さを感じさせます。本曲はマリインスキー劇場での初演作だけに曲の隅々まで知り尽くした「自分たちの曲」という自身が漲っているように感じられます。オペラティックな感興がある素晴らしい演奏です。


○2006年11月29日ライヴー2

リムスキー・コルサコフ:スペイン奇想曲

マリインスキー劇場管弦楽団
(サンクト・ペテルブルク、マリンスキー劇場・新コンサートホール落成コンサート)

前曲での渋い色調のヴェルディから一変して・キラキラした色彩と斬れの良いリズム感が実に魅力的な演奏で、この辺に選曲の妙があります。パノラマのように展開する各場面が実に生き生きとして描かれており、このオーケストラの魅力を十二分に引き出しています。


○2006年11月29日ライヴー3

ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第3幕への前奏曲

マリインスキー劇場管弦楽団
(サンクト・ペテルブルク、マリンスキー劇場・新コンサートホール落成コンサート)

この曲の爆発的な歓喜の表現を見事に描きだして・これも思わず身を乗り出してしまいそうな見事な演奏です。


○2006年11月29日ライヴー4

ストラヴィンスキー:バレエ音楽「火の鳥」〜カスチェイの凶悪な踊りから終曲まで

マリインスキー劇場管弦楽団
(サンクト・ペテルブルク、マリンスキー劇場・新コンサートホール落成コンサート)

リズムが斬れて・色彩が飛び散るが如くで、表現が生々しい見事な演奏です。カスチェィの凶悪な踊りでの重量感のあるリズムとスピード感も素晴らしく、終曲でのダイナミックな表現も聞き物です。


○2007年4月21日ライヴ

チャイコフスキー:歌劇「エウゲニ・オネーギン」

ルネ・フレミング(タチアーナ)、ディミトリ・ホヴォロストフスキー(オネーギン)
エレナ・ザレンパ(オルガ)、ラモン・ヴァルガス(レンスキー)
セルゲイ・アレクサーシュキン(グレーミン)

メトロポリタン歌劇場管弦楽団・合唱団
(ニューヨーク、メトロポリタン歌劇場)

ゲルギエフは旋律を震えるように動かして、作品の傷付きやすい繊細な若者の感覚を見事に描き出しました。特に弦の弱音の扱い方が絶妙で・室内楽的な心理表現の細部に入り込んでいく感じであるので、その分スケール感は抑えられ・派手さには欠けるところがあるかも知れませんが、チャイコフスキーはこの作品をオペラとは呼ばず・叙情的情景と読んだそうですから、これはこの作品の本質をよく体現した演奏であると思います。感情の綾の細部まで、いとおしいほどの共感を以って・丁重に描いていくそのタッチは、細密画を見るようです。演出もその線でよく練られたもので、第1幕冒頭でのタチアーなの心の故郷としてのロシアの田舎の素朴な描写が、後半に生きてきます。歌手も粒揃いでも素晴らしく、フレミングのタチアーナは活き活きとして魅力的で、第1幕の手紙のアリアはとても素敵です。ホ ヴォロストフスキーのオネーギンもタチアーナに対する感情変化をよく見せました。ヴァルガスのレンスキーはひたむきで一途な性格がよく出ています。


○2008年3月2日ライヴー1

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

マリインスキー劇場管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール、モスクワ・イースター音楽祭2008)

コンサート・ピースとして劇的に盛り上げるというのではなく、オペラの幕開きの序曲としての雰囲気を持った演奏であるのが・オペラ劇場のオーケストラとしての見識というところでしょう。その点でスケールはやや小振りで・表現をやや抑えた感じがあるのも事実です。


○2008年3月2日ライヴー2

ラヴェル:チガーヌ

ヴァデム・レーピン(ヴァイオリン独奏)
マリインスキー劇場管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール、モスクワ・イースター音楽祭2008)

レーピンのヴァイオリンが奔放かつ大胆な節回しで濃厚な民族色を感じさせてとても面白く聴かせます。ゲルギエフとの息も合って・このコンサートで一番の聴き物になりました。


○2008年3月2日ライヴー3

ブルッフ:コル・ニドライ

ユーリ・バシュメット(ヴィオラ独奏)
マリインスキー劇場管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール、モスクワ・イースター音楽祭2008)

「コル・ニドライ」は本来チェロのための作品ですが、ここではバシュメットがヴィオラで演奏しています。バシュメットが深い音色で、ヘブライの深い祈りを感じさせました。


○2008年3月2日ライヴー4

レオンカヴァルロ:歌劇「道化師」〜衣装をつけろ
チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」〜「私は彼女の名前も知らない」
ヴェルディ:歌劇「椿姫」〜乾杯の歌

ウラディミール・ゴロウジン(テノール)
アームド・アダディ(テノール)
アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
マリインスキー劇場管弦楽団
(モスクワ、モスクワ音楽院大ホール、モスクワ・イースター音楽祭2008)

断片ではありますが、オペラ・オーケストラとしての巧さを感じさせる瞬間がありました。ゴロウジンはテノールとしては暗めの音色で、「スペードの女王」・ゲルマンのアリアは聴かせますが、「道化師」のカニオのアリアはやや地味な感じ。「椿姫〜乾杯の歌」は完全にアンコールの雰囲気ですが、客席からネトレプコが歌いながら登場して客席を沸かせます。


○2008年5月9日ライヴー1

グリンカ:幻想的ワルツ

マリインスキー劇場管弦楽団
(モスクワ、モスクワ国際音楽ホール)

簡素な中に・そこはかとなく寂しさが漂うような小品をゲルギエフが軽い味わいに仕上げています。


○2008年5月9日ライヴー2

ショパン:ピアノ協奏曲第2番

ラン・ラン(ピアノ独奏)
マリインスキー劇場管弦楽団
(モスクワ、モスクワ国際音楽ホール)

ラン・ランのピアノは響きに厚みがあり・線の太い音楽を聴かせますが、煌めくような色彩感に乏しいきらいがあってやや渋めに地味に聴こえます。ラン・ランの良さは第2楽章の内省的な旋律に出ています。しかし、両端楽章ではもう少しタッチに軽やかさと輝きが欲しいところです。ゲルギエフの指揮はピアノをよく立てて、手堅いサポートだと思います。


○2008年5月9日ライヴー3

リムスキー・コルサコフ:オペラ・バレエ「ムラダ」〜お姫様のマーチ
               歌劇「皇帝サルタンの物語」〜三つの交響的情景
               スペイン奇想曲

マリインスキー劇場管弦楽団
(モスクワ、モスクワ国際音楽ホール)

色彩感とリズム感があって、どれも楽しい演奏に仕上がっています。特にスペイン奇想曲はリズムに斬れがあって躍動感のある良い出来で、ゲルギエフの語り口の巧さを楽しませてくれます。


○2008年9月ライヴー1

メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲

マリインスキー劇場管弦楽団
(バーデン・バーデン、バーデン・バーデン祝祭劇場)

軽快なテンポで、オケの動きが実に軽やかで素敵な演奏だと思います。響きが透明で、メルヒェン的な雰囲気が立ち上ってきます。中間部の表情が実に豊かです。 しかし、人によってはちょっと勢いがあり過ぎということを言う方もいるかも知れません。


○2008年9月ライヴー2

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番

アレクセイ・ヴォロドフ(ピアノ)
マリインスキー劇場管弦楽団
(バーデン・バーデン、バーデン・バーデン祝祭劇場)

まずゲルギエフのサポートが実に見事です。テンポを若干遅めにしっかり取って曲の構えががっしりして、この伴奏ならばピアノが安心して上に乗れるという感じがします。ヴォロドフは技巧をひけらかすようなところがなく、堅実な出来だと思います。旋律をしっかり歌って・好感が持てるピアニストです。第1楽章はオケとピアノがっしり組み合って聴き応えがありました。第3楽章も決してリズムを急くことなく・しっかり足を地につけて大きく締めたところが納得いく演奏でした。


○2008年9月ライヴー3

チャイコフスキー:交響曲第5番

マリインスキー劇場管弦楽団
(バーデン・バーデン、バーデン・バーデン祝祭劇場)

前半2楽章はなかなか気合いが入っていて、素晴らしい出来だと思います。全体として早めのテンポを取りながら、ここという時にテンポを大きく揺らしていく手法もハッとさせます。後半は勢いがつき過ぎたか、ややリズムが先走るようで、第4楽章はあれよあれよと音楽が先に行く感じがあるようです。ここはしっかり手綱を締めてほしかった感じがしますが。オケは色彩感ある透明な響きで聴かせます。


○2008年9月ライヴー4

メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」〜スケルツオ

マリインスキー劇場管弦楽団
(バーデン・バーデン、バーデン・バーデン祝祭劇場)

当日のアンコール曲目。当日プロ冒頭の序曲が早めのテンポで颯爽としていたので、同様に来るかと思いきや、スケルツオの方は遅めにしっかりとテンポを取って・ロマンティックを濃厚に感じさせます。


○2008年9月ライヴー5

グリンカ:歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲

マリインスキー劇場管弦楽団
(バーデン・バーデン、バーデン・バーデン祝祭劇場)

当日のアンコール曲目。このコンビのお得意曲であり、悪かろうはずがありません。颯爽としたテンポで空高く舞い上がる天馬を見るが如し。


○2008年11月28日ライヴ

マーラー:交響曲第2番「復活」

エレナ・モクス(ソプラノ)、ズラータ・ブリチュア(メゾソプラノ)
ロンドン交響楽団・合唱団
(ロンドン、バービカン・センター)

第1楽章からテンポ早めで・客観性を保って、古典的でシンプルな構図を意識したように思えます。そのために整理が付き過ぎている感じも若干あって、ゲルギエフの熱い表現を期待していると拍子抜けの感じもあるかも知れません。第2楽章など早いテンポでそっけなく進めて・あっさりし過ぎの感さえあります。しかし、抑制が効いて・押さえるべきツボをしっかり押さえた演奏であると言えます。興味深いのは第3楽章で、テンポ設定として他楽章から浮き上がる感じは全然ないのですが・早めのリズム処理からアイロニカルで滑稽な乾いた感触がごく自然に湧き上がってきます。この辺はショスタコービッチとの関連性を想像しても良いかも知れません。結果としてこの交響曲の転換点としての位置を明確に見せていますが、この第3楽章の感触の軽さにゲルギエフのマーラーへの共感を聴く気がします。独唱のふたりは声に張りと輝きがあって、ゲルギエフの簡潔な音楽作りに沿ったとても説得力ある歌唱を見せます。合唱も弱音がとても美しく、これも素晴らしい出来で、終楽章は盛り上がりました。


○2010年12月22日ライヴ−1

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番

デニス・マーツエフ(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

マーツエフはテクニックはあると思いますが、抒情的な旋律において・歌おうという意識が強過ぎるのか・テンポが遅く粘る傾向があるようです。このため本曲のように叙情的な場面と機械的な場面が交錯する場合には、テンポが緩急しているうちに基本テンポが見えなくなる気配があるようです。第1楽章でもテンポ変化を極力抑えたい感じのゲルギエフのサポートと微妙なズレが生じて、オケがピアノを押すような場面が散見されます。しかし、第1楽章ではまだ協調をどうにか保っていますが、第3楽章では協調がはっきり崩れていて・とても荒い感じになってしまいました。第3楽章ではマーツエフのピアノは早い箇所でのリズムが前のめりになっており、一方、中間部ではここぞとばかりに遅く粘ります。自分の世界に浸っていて、あまりオケに耳を傾けていないような印象を受けます。ゲルギエフのサポートも第3楽章では投げやりの感じになっていて、フィナーレはただ威勢が良いだけのバタバタになってしまいました。


○2010年12月22日ライヴー2

ムソルグスキー(ラヴェル編):組曲「展覧会の絵」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これは名演。「展覧会の絵」の演奏であると・絵のイメージは彷彿するけれども・静止した絵画的なイメージに終わる演奏が少なくないようですが、ゲルギエフの演奏で感心するのは、全体にドラマ的な・動的な展開が活き活きと感じられることです。特にそれがよく出てくるのは・プロムナードの箇所で、冒頭部だと足取りからして期待でワクワクして感じがありますし、「古城」から「テュイリーの庭」へつながる第3プロムナードであると・先の絵の印象を引っ張りながら・やがて次の絵への興味に移っていく感じがよく出ています。筆致がとても細やかで・それぞれの絵の描写に主人公の心理の動きがよく聴きとれて、曲の展開がとても面白く聴けます。「バーバ・ヤーガ」や「キエフの大門」が素晴らしいのは言うまでもありません。ベルリン・フィルの各奏者の力量が遺憾なく発揮されています。


 

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