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フルトヴェングラーの録音(1950年)


○1950年1月21日・23日・24日

R.シュトラウス:交響詩「死と変容」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、EMI・スタジオ録音)

50年代にウィーン・フィルを振ったR.シュトラウスのスタジオ録音はいずれも素晴らしいものですが、この「死と変容」はそのなかでも白眉のように思われます。スタジオでのフルトヴェングラーは気分に左右されてテンポやフォルムを崩すことがあまりありません。しっかりと足元を見据えて、構成を守っています。だから聴き手をあおるような熱い感じは乏しいかも知れませんが、じっくりと聴き手に迫るような風格を感じさせます。この「死と変容」でも冒頭からして雰囲気のある・情感に満ちた響きです。ウィーン・フィルの滑らかな弦もいいですが、木管のニュアンス豊かな歌わせ方も素晴らしいと思います。


○1950年1月25日・30日・31日

ベートーヴェン:交響曲第7番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、EMI・スタジオ録音)

スタジオ録音ですが、ライヴ感覚もある優れた演奏だと思います。全体の解釈は42年ベルリン・フィルとの演奏とそう変わっていないと思います。しかし、スタジオ録音であることと・オケがウィーン・フィルであることで、曲の彫像はよりまろやかで精緻なものになり、表現が均整のとれたものになっています。ウィーン・フィルもベルリン・フィルに負けず劣らず低弦を利かせた力強い響きで演奏を展開しています。第1楽章 冒頭は遅いテンポで入り 、ズンと腹に響くフルトヴェングラーらしい重低音です。出だしのテンポは重苦しいほどで・どうなるかと思っていると・グッとテンポアップして音楽が急に生き生きしていく・その呼吸がフルトヴェングラーの魔術ということでしょう。この第1楽章はテンポの緩急が大きいですが・その意図があざとく感じられないのは、リズムを基調にしたその音楽が前進する力を求めているからでしょう。そのリズムは十分に打ち込まれており・急き立てる感じはなく、音楽は深く・じっくりと着実に前進する力を感じさせます。第2楽章もテンポを遅くとりながらも 渋みがある深い表現です。旋律を息深く歌いこんで・内容が深いと思います。第3・4楽章においてそれまで内に向けられていた緊張のベクトルが一気に開放されるかのような設計は見事で、ディオニッソス的な熱気をはらみつつ ・ロマン的に完成された表現に仕上がっています。 リズムを前面に出しますが、決して聴き手を煽る感じがなくて、オケの重量感ある動きが聴き応えします。フルトヴェングラーの本曲の録音中でも一番の出来だと思います。


○1950年2月1日

ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、EMI・スタジオ録音)

冒頭が魅力的です。かなり遅めのゆったりとしたテンポで、明滅するような木管の煌めき・弦の柔らかなピアニシモが実に豊かな雰囲気を醸し出します。しかし、テンポが一転して早くなる展開部からはオケの動きが強圧的です。オケの人数が一気に倍に増えたような感じで、動きはダイナミックですが・前半との対比がやや唐突な感じがします。全体としては印象がやや散漫に思えます。


○1950年2月2日

チャイコフスキー:弦楽セレナード〜第2楽章・第4楽章

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ブラームス・ザール、英EMI・スタジオ録音)

録音が響きをデッドに取っていて、やや弦の響きが金属音に感じられるのが難です。ワルツは甘く流麗な語り口ではなくて、どちらかと言えば武骨で・リズムが引っかかったような不器用な感じで・ずいぶんと違う印象ですが、それが逆に素朴な味わいにもなって・それなりに楽しめます。第4楽章はやや重めで、旋律を息長く歌えないで・十分に情感を表出できていない憾みがあります。


○1950年5月20日ライヴ

R.シュトラウス:最後の四つの歌

キルスティン・フラグスタート(ソプラノ独唱)
フルハーモ二ア管弦楽団
(ロンドン、ロイヤル・アルバート・ホール、本曲の世界初演)

歴史的な世界初演の記録ですが、残念ながら非常に状態の悪いアセテート盤への録音で観賞用とは言いがたく、フラグスタートの声がややオン気味で・オケの響きは満足に味わえません。フラグスタートは暗めの声で、ややワーグナー的な柄の大きい歌唱ですはありますが、ドイツ語を丁重に歌いこんで黄昏時の雰囲気をよく出しています。フルトヴェングラーはテンポをやや速めにとり、スッキリした印象の伴奏です。フィルハーモ二ア管の弦の歌いまわしがちょっと硬めの感じもしますが、この曲の初演ということを思えば初々しい感じもします。


○1950年7月13日ライヴ

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番

アムステルダム・コンセルトへボウ管弦楽団
(アムステルダム、コンセルトへボウ楽堂)

コンセルトへボウ管との珍しい組み合わせですが・フルトヴェングラーの得意曲だけに・劇的設計が巧みなライヴ感覚のある演奏に仕上がっています。録音のせいかティンパニが強く聴こえるのも荒々しい印象を強調して面白く聴けます。このコンセルトへボウとの演奏では、安定性という点ではもちろんベルリン・ウィーンのオケの方が一日の長はありますが、曲が進むにつれて音楽が次第に熱くなっていって、フィナーレでテンポを上げての追い込みはなかなか迫力があります。テンポの緩急・アクセントの強調、やることがすべて曲に良い方に作用しているのはさすがフルトヴェングラー・この曲との相性が良いと感じます。


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