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グスターヴォ・ドュダメルの録音 


○2009年6月26日ライヴー1

コーンゴルト:ヴァイオリン協奏曲

ルノー・カプソン(ヴァイオリン独奏)
フランス放送管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)

カピュソンのヴァイオリンは細身ですが、中高音の伸びが良く・技巧も斬れるので・現代物には向きであるようです。ロマン派的な旋律の要素と現代音楽的な無機的な要素が交錯しますが、とてもバランス良く面白く聴かせてくれました。 ドュダメルの指揮もリズム感良く楽しめました。


○2009年6月26日ライヴー2

マーラー:交響曲第1番「巨人」

フランス放送管弦楽団
(パリ、サル・プレイエル)

ドュダメルは10月のロス・フィル音楽監督就任コンサートでもマーラーの第1番を振っていますが、比べてみるとロス・フィルの演奏はさすがに力が入り過ぎたような感じで、このフランス放送管の方が余計な力みがなく・その分出来も良いように思えます。それはひとつにはフランス放送管の響きの透明さに拠るのでしょう。 ドュダメルの特徴は例えば各楽章中間部の叙情的な旋律において若干テンポを落として・情感込めて歌おうとするとことにありますが、全体として流れがスムーズであるとは言えません。まあさすらう若者の切ない思いを歌っているということかと思いますが、解釈としてはロマン派の定石のイメージに乗った感じであまり新鮮さがなく、いささか平凡に思われます。オケ・コントロールはまずはいいところを見せていますが。


○2009年10月3日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ミーシャ・ブリッガーゴスマン(S),ミカエル・デ・ユング(A)
トビー・スペンス(T),マチュー・ローズ(B)
ロザンゼルス・マスター・コーラス
ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
(ロザンゼルス、ハリウッド・ボウル)

勢いに任せて飛ばしたくなるところですが、リズムをしっかり取って・真摯に音楽に向き合っている印象で好感が持てます。全体として慎重な気配が見えます。しかし、四つの楽章が同じようなテンポで全体の連関性が見えず、淡々として一本調子な感じがあり、深みという点で物足りなく思います。中間楽章、特に第3楽章が速めに感じられて・バランスが良ろしくないようです。第4楽章では合唱・独唱が速い部分でオケとの呼吸が合わない所がありますが、まあ統率が難しい曲ですからこれは致し方ない ところですが、テンポがふらつき・構成力の点でも若干弱い感じがあります。


○2009年10月8日ライヴ

マーラー:交響曲第1番「巨人」

ロスアンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
(ロスゼルス、ウォルト・ディズニー・ホール、ドュダメルのロサンゼルス・フィル音楽監督就任コンサート)

28歳でロサンゼルス・フィル音楽監督になるということで話題になったドュダメルの就任記念コンサートですが、しっかりまとめて・スタートとしては無難な出来だと思います。解釈として特に個性的というほどでもないし、多少抑えて優等生的な感じになるのは名門オケの音楽監督ともなればまあそれも当然のことかと思います。ただし、全体にもう少し陰影が欲しい気がします。どの楽章にも言えますが、中間部の叙情的な部分をただ憧れを歌うようにゆったりと重く歌わせるだけではマーラーの場合は物足りません。 ドュダメルの個性はもしかしたら第2楽章開始の遅いテンポ・それが途中で早くなっていく辺りの解釈に出ているのかも知れませんが、中間部とのバランスが悪く成功しているとは言えないと思います。もう少し中間部を軽く取った方が良いかと思います。この第2楽章は重い感じですが、対照的に第3楽章が軽めに感じられるのも気になります。これも中間部の作り方にもう少し工夫が必要に思われます。


○2010年12月31日−1

ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィル・ハーモニー・ホール、ジルベスター・コンサート)

若武者のジュルベスター・コンサート初登場ということで、テンポが早く・いかにも威勢の良い感じですが、リズムの打ちが浅いくて・表現が上滑りになっています。響きが薄っぺらに感じられます。ベルリン・フィルならばもっと重量感を前面に出して多少リズムが重めでも・打ちを深く取って、表現の彫りを深くしてもらいたいところですが、手綱を締め切れ ていないということか。


○2010年12月31日−2

ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの業罰」〜ロマンス「燃える恋の思いに」
サン・サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」〜アリア「あなたの声に心は開く」
チャピ:サルスエラ「セベデーオの娘たち」〜牢獄の歌
ララ:グラナダ

エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィル・ハーモニー・ホール、ジルベスター・コンサート)

ガランチャは低音がちょっと物足りないですが、中高音は美しく伸びがあり、ノーブルで抒情的な表現が得意であるようです。後のビゼーのカルメンでの劇的表情・ドラマ表現はいまひとつの感じですが、ここでのベルリオーズとサン・サーンスはあまり動きのない絵画的な表現の歌なので・ガランチャの個性に似合っているようです。特にデリラのアリアはその叙情的で伸びのある歌唱が実に美しく聴かせます。 ドュダメルの伴奏も歌手をよく引き立てています。


○2010年12月31日−3

サン・サーンス:歌劇「サムソンとデリラ」〜バッカナール

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィル・ハーモニー・ホール、ジルベスター・コンサート)

当日のプロのなかでは、ベルリン・フィルのノリも良くて、この曲が最も出来が良いと思います。ここではベルリン・フィルの重低音もよく出て・重いリズムが迫力をいや増しています。叙情的な場面での弦の粘り気のある艶やかな響きも見事なものです。 ドュダメルの キャラクターがこのような曲に合っているのでしょうが、リズム処理も冴えて、ここでの指揮はなかなか見事なものです。


○2010年12月31日−4

ビゼー:歌劇「カルメン」からの音楽
(前奏曲、ハバネラ、第3幕への前奏曲、セディギーリャ、第4幕への前奏曲、ジプシーの歌)

エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィル・ハーモニー・ホール、ジルベスター・コンサート)

ガランチャの歌唱は絵画的な綺麗綺麗の表現にとどまっていて、カルメンの野性味・魔性の色香のようなものがいまひとつ。低音が物足りず、表現の幅をもう少しつけてもらいたい ものです。容姿は向きなのだが、これが舞台ならとても物足りないカルメンです。ドュダメルの指揮も・これはまあコンサート形式だからということも言えますが、あまりオペラティックとは言えません。テンポ設計に若干作為が強いように感じられます。前奏曲は「ローマの謝肉祭」と同じ く、テンポが早すぎて、リズムが上滑りしています。オケの響きが薄っぺらい感じです。ハバネラの繰り返しでのリズムがちょっと遅くなりますが、逆にこうなるとデュダメルのリズムの打ちが浅い欠点がモロに出ます。ジプシーの歌は冒頭のテンポをかなり遅くして・テンポを次第に早めていく設計が若干きつ過ぎる感じですが、 曲の冒頭のテンポの打ちが鈍いから効果的が出てこないのです。第3幕への前奏曲も息の取り方が浅く平凡な出来だと思います。


○2010年12月31日−5

ファリャ:バレエ音楽「三角帽子」第2部
         (近所の人たち、粉屋の踊り、終幕の踊り)
ファリャ:歌劇「はかない人生」〜スペイン舞曲第1番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィル・ハーモニー・ホール、ジルベスター・コンサート)

ドュダメルの個性をよく生かした演奏で、響きが明るく色彩感もあるし・颯爽とした印象があってまずは聴かせます。ただし、リズムの打ちが浅い傾向がやはりあって、それが目立たないのは曲のおかげでしょう。 しかし、バレエ音楽なのだから、本当はリズム処理はしっかりして欲しいのです。それにしても名前を伏せてこの演奏を響きだけ聴けばこれがベルリン・フィルだと当てる人はいないのではないか、こういうオケになっちゃったかという一抹の感慨もありますね。多少リズムが鈍重でもベルリン・フィルらしい太目のタッチが聞きたいところではありますが。


〇2019年10月24日ライヴ

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団
(ロサンゼルス、ウォルト・ディズニー・ホール、ロサンゼルス・フィル創立100年記念演奏会)

いちおう形はとれていますが、平凡な出来だと思います。ロス・フィルは色彩的な響きでなかなか頑張っています。「魔王カスチェイの凶暴な踊り」・「終曲」などテンポ早めで勢いはありますが、如何せん全体的にリズムの打ちが浅くて音楽の彫りがいまひとつの感があり、もっと表現に冴えが欲しいと思います。


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