(戻る)

2010年録音


○2010年2月27日ライヴ

ショパン:ピアノ協奏曲第2番

アントニー・ヴィット指揮
エフゲニー・キーシン(ピアノ)
ワルシャワ・フィルハーモニー管弦楽団
(ワルシャワ、フィルハーモニー・ホール、ショパン生誕200年記念ガラ・コンサート)

キーシンのピアノがクリスタルな輝きを持つ響きで素晴らしいと思います。旋律の歌い方がとても素直で、聴き手が期待するところのショパンの魅力を十二分に味あわせてくれます。第1楽章は力強い響きで線の太い音楽造りですが、一転して第2楽章の繊細かつ落ち着いた味わいも見事。特に素晴らしいのは第3楽章で、キーシンのピアノがリズムがキラキラと煌めくように感じられます。ヴィットのサポートは出過ぎたところがなく、キーシンのピアノを良く立てて好演です。


○2010年3月6日ライヴー1

ブラームス:大学祝典序曲

ネーメ・ヤルヴィ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これはなかなかの好演で、テンポは心持ち早めに取り、リズムに活気があり・表情に張りがあって、ここではベルリン・フィルの重厚な弦が良く生きています。ブラームスのがっちりした構成のなかにも・祝典曲らしい華やかさがよく出ています。


○2010年3月6日ライヴー2

ブラームス:悲劇的序曲

ネーメ・ヤルヴィ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

前プロの大学祝典序曲と比べると、曲想にも拠るのかリズムがやや重めになり・暗めのアンニュイな雰囲気が漂います。全体としては線が太めのスケールも大きい曲作りで・決して悪くはないのですが、テンポ遅めの箇所で若干もたれ気味の感じがなくもなく、全体として一貫してテンポ早めに斬れ良く処理して欲しかった感じがします。


○2010年3月6日ライヴー3

ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲

ネーメ・ヤルヴィ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

全体としてロマンティックな解釈と言えます。冒頭はゆったりと濃厚な味付けで始まりますが、展開部は一転して快速テンポで走りまくります。テンポの緩急の差を大きめに付けていますが、ゆっくりと遅い箇所が若干粘る感じで、その落差がちょっと大きいようです。


○2010年3月6日ライヴー4

グリーグ:劇付随音楽「ペール・ギュント」第1組曲・第2組曲

ネーメ・ヤルヴィ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

劇付随音楽というのは、描写音楽ともまた異なり・ドラマのなかで音楽が出過ぎてもいけないというところがあると思います。コンサート・ピースとしてドラマティックで派手な音楽作りをすることもできると思いますが、ヤルヴィの音楽作りは背景音楽としての節度を持っているというか、曲も持つ旋律を素朴な感じで歌っていて・派手さはないけれども、好感が持てます。「朝」や「ソルヴェーグの歌」などは簡素ななかにも・そこはかとなく情感が漂ってくるようです。一方、「アニトラの踊り」や「山の魔王の宮殿にて」もリズムをしっかりと打って堅実な出来と言えます。


○2010年3月6日ライヴー5

シベリウス:アンダンテ・フェスティーヴォ

ネーメ・ヤルヴィ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

荘重で心にしみ入るような弦の厳かな響きで魅了されます。ここではベルリン・フィルのちょっと暗めの弦の響きがよく生きています。


○2010年4月17日ライヴー1

バッハ:ピアノ協奏曲第1番

アンドラーシュ・シフ(ピアノと指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

リズムをしっかり取って・足取りがきちんと取れているので、古典的ながっしりとした構造が感じられます。シフのピアノは実に端正で、テンポ早めに追い込んでいく緊張感あるピアノとオケの対話の第1楽章の後の、しっとりとして美しい第2楽章はホッとするような安らぎがあって強く印象に残ります。この第2章は素晴らしいですが、第3楽章も活気があって聞かせる演奏です。


○2010年4月17日ライヴー2

ハイドン:交響曲第100番「軍隊」

アンドラーシュ・シフ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

シフの指揮はリズムがしっかり取れていて、とても端正であるのが素晴らしいと思います。表現が決して大柄に重くならず、旋律を無理なく歌っているので、第2楽章や終楽章でのトルコ軍楽の引用でもそこからパパ・ハイドンのユーモア感が自然ににじみ出てきます。この辺の処はなかなか巧いものです。第1楽章もとても軽やかで洒落た表現で素敵です。第3楽章のメヌエットのリズムも軽やかで、とても素晴らしいと思います。


○2010年4月17日ライヴー3

モーツアルト:歌劇「ドン・ジョヴァン二」序曲
        ピアノ協奏曲第20番

アンドラーシュ・シフ(ピアノと指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

「ドンジョヴァン二」序曲とピアノ協奏曲第20番を拍手なして切れ目なく・続けて演奏しています。シフはしっかりとリズムを守って・とても端正な音楽を聴かせますが、そこからとても暖かい人間的な感情が湧き上がってくるようです。シフの指揮は「ドンジョバンニ」序曲ではスケールとしては決して大きくないけれども・引き締まったかっきりとした古典的な表現です。シフがこの二曲を関連付けた理由ははっきりしませんが、「ドン・ジョヴァン二」序曲の持つ重々しさと、ピアノ協奏曲のメランコリックな感覚を結び付けて四楽章構成として扱うことで古典的な形式感を持たせると同時に、ピアノの響きにロマン的な感性のほとばしりを持たせることに成功しています。シフのピアノは渋く輝くような響きで、決して派手さはないのですが、暖かみのある・情感のある響きです、古典的形式を突き抜けて、更なる表現を求めたモーツアルトの心情が聴こえて来るようです。このピアノ協奏曲でのベルリン・フィルの伴奏はとても端正で素晴らしいと思いますが、その上に乗った情感がそこはかとなく湧き上がる・ピアノの語り口がとても素晴らしく、感性豊かな深い音楽に仕上がりました。第2楽章はしっとりと心に旋律が沁み込んでくるようですし、第3楽章も軽やかな動きのなかにも落ち着いた味わいがあって・とても心地良く感じられます。


○2010年5月8日ライヴ

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ミカエラ・カウネ(ソプラノ)、ジャニア・ベッケレ(アルト)
クラウス・フローリアン・ヴォイト(テノール)、トーマス・J・マイヤー(バス)
クリフトフ・ヴォン・ドホナーニ指揮
北ドイツ放送交響楽団・合唱団
(ヴィースマール、聖ゲオルク教会)

残響の長い教会内での演奏会ですが、ドホナー二はリズムをしっかり取って・テンポの加減も良く、響きが混濁することなく・明晰な音楽を作って、そこにほど良い残響が加わって・なかなかの効果を挙げています。派手さはないですが、実に手堅く・この交響曲のあるべき姿を提示してくれて、聴き応えがあります。第1楽章の端正な造りも良いですが、第3楽章など淡々とした流れのなかにも・深くじっくりした味わいが聴かれます。第4楽章も独唱陣も揃って・合唱ともども芝居っ気はないけれども、しっかりまとまって・真摯な演奏を聴いたという満足感があります。とにかく音楽が急かず・足取りがしっかりしているのが好感が持てます。オケも好演。


○2010年11月17日ライヴ

ショパン:ピアノ協奏曲第2番

イーヴォ・ポゴレリッチ(ピアノ独奏)
トゥガン・ソキエフ指揮
フィルハーモニア管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、フィルハーモニア管欧州ツアー)

ポゴレリッチは同年4月28日に東京でデュトワ指揮フィラデルフィア管との共演でこの曲を演奏しました。この時の演奏は情緒的に不安定でのめりこみが強く・オケと張り合う印象が強かったですが、それと比べるとこの演奏はかなり平静状態を取り戻したような感じです。ひとつにはテンポがそれほど大きく伸縮せず、極端に長い旋律の息の詰めが見られないことなどです。その分、全体の演奏時間も短くなっているようです。だからバランスが取れて聴き易くなっており・演奏としてのまとまりも良いと感じますが、それでもユニークなポゴレリッチ節が聴けることに変わりありません。ショパンの旋律の息を実に大切にした演奏で、ひとつひとつの音が確信を以って鳴り響く感じです。時にサラリと早いテンポで弾きあげるパッセー時が煌めくように感じられます。ユニークなのはやはり第2楽章で、ここでのポゴレリッチはとても息を長く旋律を歌い、旋律が心に染み入るが如きです。ソキエフ指揮のフィルハーモニア管もポゴレリッチの息をよく取って・良いサポートを聴かせます。


○2010年12月11日ライヴ−1

R.シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」

ネーメ・ヤルヴィ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

旋律線が太く手堅い印象に仕上がりました。若干響きの豊穣さと官能性に欠けるところはありますが、疾走感があって、なかなか聴かせます。


○2010年12月11日ライヴ−2

チャイコフスキー:幻想曲「フランチェスカ・ダ・リミニ」
           バレエ音楽「くるみ割り人形」〜花のワルツ

ネーメ・ヤルヴィ指揮
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

「フランチェスカ・ダ・リミニ」は、ベルリン・フィルの暗めの色調をよく生かして、線が太く・重厚に描かれた音絵巻に仕上がりました。中間部の叙情的な部分でテンポが伸び気味で・表現がややロマンティックに傾いたようで、これがテンポの早い場面とのバランスを欠き、全体の構成はもう少し統一感が欲しいように思われました。その意味ではアンコールの花のワルツで歌い廻しにロマンティックな濃厚な味わいが出ているようで、ここらにヤルヴィの個性がよく出ているのかも知れません。


 

(戻る)