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1956年録音


○1956年

ベートーヴェン:交響曲第7番

グィド・カンテルリ指揮
フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングスウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

表現が実に的確です。誰もが表現に工夫を凝らし・挑戦的になるこの交響曲に、これほど自然体で臨んだ指揮者の珍しいのではないかと思います。両端楽章ではリズムを鋭角的に以って・推進力で曲を引っ張っていくのはよくある行き方ですが、カンテルリはむしろ表現の尖ったところを抑えて・表現を自然な丸みのあるものにしてくのです。表情の細やかさ・しなやかさに注意を払っている演奏なのです。したがって、強引な・セカセカした感じはまったくなくて、くつろいだ自然体のなかで・曲のスケールがおのずと立ち現れてくる感じです。こういう演奏が36歳の若者に出来るというのはちょっと信じがたい感じさえします。逆に言うと・この老成した音楽は天才指揮者の短い運命を予感しているようにさえ思えます。テンポ・表情ともに中庸をわきまえた演奏ですが、そのゆったりした流れがとても心地良く感じられます。両端楽章にカンテルリの特長がよく出ていますが、第2楽章の豊かな流れも魅力的です。フィルハーモニア管は特に弦の暖かさが魅力的です。


○1956年6月

モーツアルト:交響曲第29番

グィド・カンテルリ指揮
フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、キングス・ウェイ・ホール、EMI・スタジオ録音)

1956年11月に飛行機事故で36歳の若さで亡くなったカンテルリの最後の録音のひとつですが、この演奏だけ聴いても・その才能は歴然。これが36歳の指揮者の演奏とはちょっと信じがたいほど・練り上げられた気品あるモーツアルトです。特に前半3楽章までは息遣いの細やかさ、表情の柔らかさ、歌い方のしなやかさなどどの点をとっても文句の付けようがない気がします。表現に硬いところがまったく無くて、この小交響曲の魅力を余すところなく表現しています。表現に出過ぎたところがなく・音楽を押さえるツボを良く心得ているという感じがします。ただ第4楽章だけはややアクセントが強い感じがして・多少違和感を感じますが。フィルハーモニア管の弦は暖かく優秀です。


 

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