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1926年録音


○1926年12月8日、10日

メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲

フリッツ・クライスラー(ヴァイオリン独奏)
ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、HMVスタジオ録音)

メンデルスゾーンのこの曲に関しては、依然としてこの録音をベストにしたいと思っています。録音は貧しくて響きの豊穣さは期待できないし、スケールもこじんまりとしていますが、第1楽章からまことに素朴で、清貧といっても良いような美しさがあります。何も言い難い懐かしさと、今はもう失われてしまった古き良き時代への想いを抱かせます。ひとつにはクライスラーの朴訥な語り口に拠るのだろうと思います。テクニック的にはもっと巧い人はいくらもいそうですが、音楽から湧き上がる温かいヒューマンな感覚を誰も真似ることは出来ないと思います。飾り気がない、手作りの音楽という感じがするのです。ブレッヒ指揮の管弦楽も、クライスラーのソロと一体化して出過ぎることがなく、さりげないほど適格なサポートです。第1楽章のゆったりした旋律の流れから一転して、第3楽章の早いリズムに移行していく辺りも、実に小粋で愛らしく感じます。


○1926年12月14日〜16日

ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲

フリッツ・クライスラー(ヴァイオリン独奏)
ベルリン国立歌劇場管弦楽団
(ベルリン、HMVスタジオ録音)

初期SP録音なので管弦楽の響きは貧しいですが、その鄙びた雰囲気が何とも懐かしい雰囲気を醸し出しています。まずテンポがゆったりとして、拍がしっかり打ち込まれていることです。これが古典的で重厚な印象につながっています。決してスケールが大きくはなく、むしろこじんまりした感じに思われます。音楽に推進力が付いて元気が良いわけではなく、おっとりと淡々と音楽を綴っている感じなのですが、聴いていて心が和むのは、そこにしっかりした歌心があるからです。それで自然に音楽の器の大きさが出て来るのです。クライスラーのヴァイオリンは、技術よりも歌心優先であり、その柔らかい音色と歌い回しが何とも素晴らしいと思います。クライスラーの温かい人間性が感じられます。第3楽章でもテンポを逸るのではなく、しっかり足が地に付いた音楽なのです。


 

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