(戻る)

べームの録音 (1980年)


○1980年6月−1

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」〜第1幕への前奏曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

1980年6月のワーグナーのスタジオ録音は晩年のベームということもあり・どれもテンポがかなり遅めですが、リズムはしっかり打ち込まれており・音楽の停滞感はありません。どれもゆったりとした器の大きさを感じさせます。どの曲もオペラのドラマ性と離れたところで・イメージが浮遊するような感覚があるのが面白いところです。しかし、この「マイスタージンガー」前奏曲の場合、全体が同じようなテンポのせいか・軽妙な中間部との対照が際立ってこないきらいがあります。ちょっと気になるのは録音のせいか・金管が前面に出過ぎて、響きがややキンキンしてうるさく感じられることです。響きにもう少し暗めの渋い色調が欲しいところです。


○1980年6月−2

ワーグナー:歌劇「ローエングリン」〜第1幕への前奏曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

1980年6月のワーグナーのスタジオ録音のなかでは、もともとテンポが遅いこの曲が一番優れた出来だと思います。ウィーン・フィルの弦のピアニシモが清冽な雰囲気を醸しだし、深い精神的世界へ連れて行ってくれる心持ちがして、感銘深い演奏です。


○1980年6月−3

ワーグナー:歌劇「ローエングリン」〜第3幕への前奏曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)フィ

普通は超快速で・爆発的な歓喜を表現するところですが、このゆっくりとしたテンポでスローモーションを見るような感覚があるのが・実に不思議で面白いと思います。


○1980年6月−4

ワーグナー:歌劇「さまよえるオランダ人」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

全体にゆっくりしたテンポで・冒頭の嵐の場面での動感は感じられませんが、その代わりにゆったりとした思念の流れがあって、ひとつの交響詩として聴けば非常に興味深い演奏であると思います。


○1980年6月−5

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」〜第1幕への前奏曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

遅めのテンポが曲に似合っていて、とても叙情豊かな演奏です。特にウィーン・フィルの弦の柔らかさが印象的です。前奏曲だけであると尻切れトンボの感じで・「愛の死」が欲しかったと思います。熱くうねるような情念は感じられませんが、ゆったりとした叙情の流れがあって・決して音楽が緩んでいるわけではなりません。テンポは遅いですが、そのしっかりした足取りはベームならではのものです。


○1980年6月−6

ワーグナー:歌劇「タンホイザー」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

全体にゆっくりしたテンポで、冒頭部の巡礼の旋律は幽玄な響きで・精神的世界に連れて行ってくれるような深さがありますが、ヴェヌスベルクの旋律はこのゆっくりしたテンポでは官能性の対照が効いてこないのは仕方ないところです。しかし、同じ時期の「さまよえるオランダ人」序曲の録音と同様に・ひとつの交響詩として聞けばなかなか興味深いものがあると思います。


○1980年11月9日ライヴ

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界より」

ケルン放送交響楽団
(デュッセルドルフ、トーン・ハレ)

「新世界」交響曲はべームのレパートリーとしては我々にはなじみが薄いですが、晩年のべームはこの曲をよく取り上げています。なかなかの好演で、これは掘り出し物でした。オーケストラも出来も優秀です。べームはドヴォルザークの民族性やら標題などにはこだわらず、純音楽的にこの曲を捉えなおしているようです。したがって第2楽章「家路」の旋律にしてもあっさりしたものです。しかしそれが無味乾燥ではなくて・スッキリとさわやかな味わいに仕上がっていることを評価したいと思います。晩年のべームはテンポが遅いイメージがありますが、ここでのべームのテンポはむしろ早めで・インテンポで曲を淡々と進めていきます。特に優れていると思うのは両端楽章です。リズム処理も素晴らしく・大変若々しい印象の演奏になっています。


(戻る)