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べームの録音 (1977年)


○1977年2月−1

ブラームス:悲劇的序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(フィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

全体にリズムは重めで・熱気という点ではいまひとつですが、スケール感が大きくて・聴き終わってずっしりとした充実感があります。テンポが遅い叙情的な部分に比重を置いた演奏で、ウィーン・フィルの弦の柔らかい響きがとても魅力的です。


○1977年2月ー2

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

遅めのテンポですが・しっかりとした足取りでリズムを刻んでいきます。派手さはないですが、じっくりとした味わいがあります。各変奏の性格は明確に描き分けられており、早いテンポの部分においても聴き手を煽るようなところがなく、しっかりと手綱を引き締めています。まったく何ものにも動じない大家の芸であると感じ入ります。


○1977年3月7日ライヴ−1

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

第1楽章出だしは晩年のベームらしいゆっくりとしたテンポで始まります。その当時は遅く感じられたものですが、今聴けばなかなか含蓄のある懐の深いテンポに思われます。それと言うのもしっかりと地面に足を踏みしめるように・リズムをしっかり討って音楽が進行しているからです。ひとつひとつの音に意味がこもっていて、音楽が緩んだ感じがしません。全体を遅めのテンポで通しているので、そのバランスで第2楽章が若干早めの感じに聴こえます。各楽章の連関が見えにくくなっているきらいはあるかも知れません。しかし、第3〜4楽章でしっかりとリズムを打ち込んで・聴き手を興奮に駆り立てることをせず・じっくりとスケールの大きい音楽を作り上げていく点はやはり並の指揮者にできることでないことを痛感させます。


○1977年3月7日ライヴ−2

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

晩年のベームらしい遅いテンポで・前半はじっくりと抑えた音楽造りですが、後半はテンポが急に速くなって・ベームの若い頃を思い出せさせる感じで表情がキッと引き締まって・なかなか劇的な盛り上がりを見せます。オペラティックな感興もありますが、前半と後半の対照が効き過ぎと言うか・やや作為的な感じがしなくもありません。


〇1977年3月24日ライヴー1

ハイドン:交響曲第88番「V字」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベームらしいフォルムの確かさを持ちながら、優雅さが漂うハイドンで、好演だと思います。インテンポながら、性急にリズムを刻まず、造形にゆったりとした余裕を持たせていることが良い結果を生んでいます。第1楽章にはちょっとロマンティックな情感さえ漂う居ます。第4楽章もリズムが重くならず、軽やかで好ましいと思います。


○1977年3月24日ライヴ−2

ブルックナー:交響曲第7番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

全体としてテンポは早め。テンポをしっかりと守り・足取りが取れていて、造型が引き締まって・実に小気味が良い演奏です。リズムが深く打ち込まれているので、音楽が深く・推進力があります。だからブルックナーの旋律が生きてきます。細かいところにこだわっていないような・武骨な感じがありますが、実はさりげないところで優しい心遣いが見えるのです。ブルックナーの本質をとらえた演奏であると感じます。特に前半のふたつの楽章が素晴らしいと思います。第1楽章でhな早めのテンポで刻々と変化していく風景が見事に描かれています。第2楽章も深い表現です。流れるような旋律のなかに・穏やかな情感が漂っていますが、決して情緒に流れてはいないのです。後半2楽章はリズムを深く打ち込んで、決して音楽が前のめりにならない安定した仕上がりです。


○1977年6月19日ライヴ-1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ホーエネムス、聖カール・ボロメウス教会、1977年シューベルティアーデ)

ゆったりしたテンポの優美このうえないシューベルトです。音楽の流れを大きくつかんで聴く者をそのなかに引き込んでいくような気がします。スケールは大きいのですが、威圧感がまったくないのです。教会での演奏だけに残響はやや長めですが、それがウィーン・フィルの響きのまろやかさを一層高めているようで、忘れ難い余韻を感じさせます。特に第1楽章が名演であると思います。柔らかな響きのなかに秘められた厳しさが感じられます。第2楽章もその豊かで瞑想的な流れが実に美しいと思います。晩年のべームの至芸とも言うべき演奏です。


○1977年6月19日ライヴー2

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ホーエネムス、聖カール・ボロメウス教会、1977年シューベルティアーデ)

これは実に素晴らしい演奏です。教会での演奏ということもありますが、残響の長さを生かしてゆったりとしたテンポを取り、響きがとても美しい演奏です。テンポを揺れ動かすことなく、どっしりした安定感があります。ウィーン・フィルの木管と弦の優美なことと言ったら筆舌に尽くしがたいほどです。第1楽章冒頭からしてそのゆったりとした構えの大きさが感じられます。作為的な表現がまったくなく・自然そのままでその器の大きさが自ずから現れるといった感じであり、まことに大家の芸であるなと感嘆させられます。この演奏には「天上への憧れと平安」があるのです。特に第2楽章の美しさと安らぎの表情はこれこそシューベルトの緩徐楽章であると感じ入ります。これでこそ後半のリズム主体の楽章が生きてきます。第4楽章もテンポを早めて聴衆に汗をかかせることなく・しっかりした足取りで歩を進め、壮大なスケールのなかに誘い込んでいきます。シューマンの言う「天国的な長さ」とはこういうものかと思わせるようなロマン的表現です。これは何度聴いても飽きのこない・正統的かつ理想的な演奏であると思います。


○1977年8月1日ライヴ

モーツアルト:歌劇「ドン・ジョバンニ」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場、全曲上演からの抜粋)

劇的な作りを目指すのではなくて、あくまでオペラの序曲として手堅くまとめようという感じでしょうか。序奏もフルトヴェングラーのように劇的に大きく引き延ばすのではなくて、意外にあっさりしたものです。テンポは早めで一貫していますが、展開部においてもリズムを重めに取り軽い感じになることを避けています。オケはあまり低音部を強調せず、小振りで透明感のある演奏になっています。


○1977年8月10日ライヴー1

モーツアルト:交響曲第28番

ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ロンドン響は響きが透明で・高弦の作る線が明確で、リズムを正確に刻むベームには相性が良いオケだと思います。キビキビとして造形のしっかりしたモーツアルトです。若干リズムの刻みが前面に出た感があり、音楽にいまひとつ余裕がないようであり、もう少し遊び心が欲しい感じです。音楽が生真面目なのです。


○1977年8月10日ライヴー2

R.シュトラウス:交響詩「死と変容」

ロンドン交響楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

意外にベームのテンポは遅めで、しかもリズムが揺れるところがあります。そのために構成が弱くなっている感じがします。前半の静かな表現においてロマンティックな場面がありますが、後半部においては客観性を保った感じで 、音楽に没入しきれない恨みが残ります。


〇1977年8月17日ライヴー1

モーツアルト:ピアノ協奏曲第23番

マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ独奏)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ゆっくりめのテンポを取って、旋律をよく歌わせています。足取りがしっかり取れているので、音楽がのびやかで、息が深いのです。安心して音楽の流れに身を任せられる気がします。構成がしっかりして、古典的な格調があるのが、ベームの良さです。ウィーン・フィルの響きがふっくらと柔らかく、魅力的です。ポリーニのピアノは、内省的な渋い響きで音楽を作って行くところが、ベームの音楽作りとよく合っています。特に第2楽章はじっくりと深い音楽になっています。


○1977年8月17日ライヴ−2

ブルックナー:交響曲第7番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ベームは比較的テンポを守る指揮者であると思いますが、このブルックナーでは意外にテンポが揺れます。特に第1楽章にテンポの緩急が大きいようです。ただし作為が目立つほどでもないですが、最初はゆったりしたテンポで始まりますが、音楽が高揚してくるとテンポが早くなって来ます。ブルックナーではテンポを動かすことで躍動感は出ますが、音楽の器量が損なわれることもあって、この演奏でも例外ではないようです。同じことが第3楽章にも云えます。出来が良いのは第2楽章で、ここでのテンポは比較的早めに感じられますが、ウィーン・フィルの柔らかみのある響きが自然で心地よい流れを作っています。しかし、ベームの良い点はテンポが早くなっても、しっかりと拍が打ち込まれて、音楽が上滑りしないことです。だから音楽に深みがあって、聴き終った時に良い演奏を聴いたという充実感があります。


○1977年8月28日ライヴ

モーツアルト:歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」序曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭小劇場、全曲上演からの抜粋)

響きからするとオケはそれほど大きな編成ではないと思われますが、テンポが遅めのやや腰の重い演奏ではあります。しかし、ウィーン・フィルの柔らかい弦の響き・木管の表情のニュアンスの美しさは格別です。懐の深い巨匠の至芸といったところです。


○1977年10月8日ライヴ−1

シューベルト:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン芸術週間、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

べームは、シューベルトの青春の息吹きを感じさせる若書きの交響曲をゆったりとしたテンポで、あたかも「未完成」に通じるようなイメージで演奏しています。特に第2楽章はシューベルトらしい古き良き時代を思わせる懐かしさに満ちています。音楽の流れが豊かで美しい演奏です。


○1977年10月8日ライヴ−2

ベートーヴェン:交響曲第7番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン芸術週間、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

晩年のべームは重うゆったりしたテンポで振るようになってきて、そのことを指摘されるとベームは嫌な顔をしたそうですが、この演奏ではこの傾向が見えます。私の記憶ではこれより数年前にはベームは早めのテンポで造形の厳しい第7番を振ったと思います。そのイメージがあるので、当時この演奏を聴いた時には非常に物足りなく思ったものでした。しかし、今回改めてこの演奏を聴きなおして、ゆったりとした流れのなかに深い味わいがある・懐の深い演奏であるなと感じ入りました。晩年のべームの良さを再認識した気がしました。特に第2楽章の音楽の流れを大きく摑んだ演奏は聴き手に安らぎを与える暖かさに溢れています。リズムが重いと言っても両端楽章の出来もなかなかのものです。構えが大きく・揺ぎのない、まさにドイツ音楽の正統という感じがします。それにしてもベルリン・フィルの引き締まった音はべームに相性がいいと思うことしきりでありました。


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