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べームの録音 (1975年)


○1975年1月30日ライヴー1

シューベルト:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

シューベルトの若書きの交響曲を、音楽の構えを大きく・交響曲らしい佇まいで見事に聞かせます。恐らく曲本来の姿より若干編成が大きく・響きが重いだろうと思いますが、ベルリン・フィルの低弦の効いた響きと骨格の太い音楽作りは聴き応えがあります。第1楽章のリズムの斬れた若々しい表現も魅力的ですが、中間2楽章のシューベルトらしい素朴で美しい旋律を淡々と奏でるところがなんとも印象的です。


○1975年1月30日ライヴー2

ブラームス:交響曲第2番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ベームの得意曲だけに気合いが入ったいい出来です。武骨でぶっきらぼうな感じもしますが、ブラームスの音楽をしっかり感じさせます。ベームとベルリン・フィルとの相性は非常にいいと思います。ベルリン・フィルの低弦の効いた・重心の低い響きはベームによく似合います。若干仕上がりは粗い感じもしますが、音楽の細部を磨くのではなく・細かいことにこだわらない骨格の太い音楽なのです。まず全体のテンポ設計が良いと思います。中間2楽章はややテンポを速めに取っていますが、軽い印象を与えず・造形が引き締まっています。第4楽章もオケを煽り立てず・インテンポに手綱を引き締めて・構えをけっして崩さないところがベームらしいところです。


○1975年3月17日ライヴー1

ブラームス:交響曲第1番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

晩年のべームらしい悠然としたテンポで・無理な力を入れず・この曲本来のスケール感を表出しています。改めてベームの偉大さを感じるのは、テンポをしっかり打ち込んでいて・遅いテンポでも音楽が弛緩していないことです。旋律が息長く歌われているのです。その最も良い例が第2楽章に見られます。ゆったりした流れのなかに・ブラームス特有の濃厚なロマンティシズムがゆらめくように立ち昇っていきます。ここでのウィーン・フィルの弦は柔らかく滑らかで実に美しいと思います。第1楽章はもう少し厳しい造形を求めたくなるのも事実ですし、若い頃のベームならばそうだったと思いますが、しかし、これは今聴けばやはりこの時代のベームにしかできない大人の芸なのです。第4楽章展開部からはテンポが速くなって・造形が引き締まってきて・最後は見事に締めくくります。


○1975年3月17日ライヴー2

J・シュトラウスU:ワルツ「美しく青きドナウ」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

当日のアンコール曲です。晩年のベームとウィーン・フィルとの信頼関係を彷彿とさせます。こうした曲で何を仕出かそうというのでもなく、事実何もしていないのですが、この演奏のようにどこか暖かいほのぼのとしたワルツはもはやウィーン・フィルからでさえも聴かれなくなっていることを改めて思います。ゆったりとした遅めのテンポのなかに古き良き時代を回想させてくれます。 響きのふんわりとした柔らかさから滲み出てくる情感、リズムの息遣いがウィーン的なのです。


○1975年3月17日ライヴー3

ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

冒頭から展開部まではテンポも遅めで・弱音が若干緊張感に欠けるところがあってどうかと思わせますが、展開部に入ってテンポが速まるとがぜん熱気が出てきます。全奏での鋭い音の立ち上がりからして気合いが違ってきて、フィナーレの盛り上がりまで壮年期のベームを思わせる引き締まった造型で一気に突き進みます。オペラティックな感興が沸いてくる見事な締めくくりです。


○1975年3月17日ライヴー4

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

ベーム/ウィーン・フィルのストラヴィンスキーは珍しく・正直言ってあまり食指が沸かなかったのですが、意外や素晴らしい出来で・ベームの実力を改めて見直しました。まず冒頭からしてウィーン・フィルの気の入れ方が違います。慣れていない曲だけに・ウィーン・フィルもベームの棒に喰い付くように反応しており、いつもはどちらかと言えば立ち上がりの遅いオケですが・ここでは立ち上がり鋭く・力強い音なのに驚かされます。さらに管楽器陣が熱演です。「火の鳥の踊り」での木管の軽やかさ、フィナーレでの金管の炸裂など見事なものです。ウィーン・フィルの低音が効いて・線がやや太めのタッチで重量感あるもの良しです。ベームは実に適切なリズム処理をしていて・旋律の歌い方は直線的に簡潔で力強く、壮年期を想わせるほど表現が若々しく感じられます。


○1975年3月19日ライヴ−1

シューベルト:交響曲第8番「未完成」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

全体に遅めのテンポですが、第1楽章での武骨なリズムの刻み方はベームらしい厳しい表現であると思います。しかし、そこにゆったりとした自然な大きさが感じられます。それはリズムがしっかりとれて・息が深いからでしょう。特に第2楽章はウィーン・フィルの柔らかい弦と木管が実に美しいと思います。 ちょっとテンポは早めにも感じられますが・第1楽章とのバランスが良く、澄み切ったシューベルトの情感が味わえます。


○1975年3月19日ライヴー2

シューベルト:交響曲第9番「ザ・グレート」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

遅めのテンポを取っていますが、ゆったりとした風格が感じられ・実に味わい深い演奏になっています。1977年シューベルティアーデの演奏をベームの最高の演奏と考えますが、これも素晴らしい演奏です。その2年前ということもあるでしょうが、活気というか・リズムの鋭さはこちらの方があるようです。またテンポの変化も若干大きいようです。 テンポの遅い部分において表現がちょっと緩む感じがなくもありません。ウィーン・フィルの弦の優美さ・木管のまろやかさは今では聴けない貴重な雰囲気を持っています。第2楽章などゆったりと急かない大きさがあり、これこそまことのシューベルトという感じがします。 第3楽章は中間部でテンポを落としたりして・比較的テンポの変化が大きいようですが、第4楽章はフィナーレに向かってテンポを速くして・表現が冴えています。


○1975年3月19日ライヴー3

ワーグナー:楽劇「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕への前奏曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

テンポがゆっくりしているのはいいのですが、ちょっと造型に締りがない感じがあります。冒頭もゆったり大きく音楽を作っているが、荘厳な石造りの町並みが浮かんでくるまでには至りません。対位法の響きの重なりのなかに形式の厳しさが見えてこないせいか。一方、中間部の軽妙な木管の動きにも遅いテンポのなかで遊びが見えてきません。


○1975年3月25日ライヴ−1

ヨハン・シュトラウスU:常動曲

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

のんびり・おっとりした演奏で、テンポも遅めです。晩年のベームとウィーン・フィルの良好な関係を示す・アットホーム的な暖かい雰囲気があって面白いと思います。


○1975年3月25日ライヴー2

ヨハン・シュトラウスU:トリッチ・トラッチ・ポルカ

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、NHKホール)

テンポはゆったりめ、本来はもう少し早めで・音の律動を楽しむ曲なのでしょうが、そこを追わない所が返って面白いということでしょうか。微妙な節回しにおいてウィーンらしさがフッと立ち上る所にこの演奏の味わいがあります。


○1975年5月−1

ブラームス:交響曲第2番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

第2番はベームの得意曲だと思うのですが、ベームが体調不良なのか・全体的に表情に冴えがなくて元気がない演奏です。テンポが遅めなのは・この時期のベームの特徴なのですが、特に前半の2楽章はリズムの斬れ・表情の冴えが物足りない。第1楽章はもう少し明るさと軽味を出してもらいたいと思います。第2楽章はリズムが重くて・ベームらしさが感じられません。わずかにベームらしいと思えるのはインテンポで・構成力はしっかりしていることですが、恰幅良く・スケールは大きいだけに・生気がないのが残念です。後半はややリズムの斬れを取り戻す感じで、第4楽章は弦の表情にも力が入っています。


○1975年5月ー2

ブラームス:交響曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

若干テンポの重さを感じさせ、音楽の推進力不足を感じさせます。しかし、音楽の安定感はさすがにベームと感じさせるものがあって・全体としてのバランス感に不足はなく、ゆったりとした形容の大きさがあります。ウィーン・フィルは弦に冴えがない印象で、もう少し熱さを感じさせてもらいたいという気がします。前半2楽章はそのテンポの遅さが音楽の流れを停滞させている感じがなくもありません。しかし、後半の2楽章ではその不満もやわらぎ・安定した情感深い音楽を作っていると思います。


○1975年5月−3

ブラームス:交響曲第1番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

第1番はベームの得意曲だけにさすがに見事な出来です。テンポはやや遅めですが・全体をインテンポで通し、安定感は抜群です。しっかりとリズムを刻み、腰を落ち着けた音楽です。両端楽章はスケール感ありますが、第4楽章フィナーレも聴き手を煽るようなところがなく・しっかりと地面を踏みしめていきます。べームらしい実直な音楽で・聴き終わった後に充実感が残ります。第2楽章もそのじっくりとした深い音楽が魅力的です。


○1975年6月

ブラームス:交響曲第4番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

この第4番でもテンポの遅さ・推進力の不足は感じられますが、音楽の持つ安定感・形容の大きさなどべーむらしいところを確かに感じられます。しっかりとリズムを取って・地面を確実に踏み込んで進む音楽であると感じさせます。第1楽章後半や第4楽章に熱いものを感じさせるのは、第3番よりべームと曲の相性も良いのだろうと思います。中間楽章も落ち着いた味わいがありますが、第4楽章では激することなく・安定した足取りのなかに密度の高い音楽を聴かせており・さずが晩年のべームの大家の芸だと思わせます。


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