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べームの録音 (1970年)


○1970年4月

ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」

ギネス・ジョーンズ(S)/タチアナ・トロヤノス(A)
ジェス・トーマス(T)/カール・リーダーブッシュ(B)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・スタジオ録音)

必ずしもべームの最上のパフォーマンスではないと思いますが、テンポはやや遅めにしても・リズムをしっかち打ち込んでいるので・音楽の息がダレることなく深いのには感心させられます。素晴らしいのは第3楽章です。うまく聞かせてやろうと言う魂胆などなく、ただ淡々と刻むリズムのなかにしみじみとした音楽の流れが感じられます。そこにべームの素朴な人柄が感じられるような気がします。しかし、第9番の場合にはやはり多少の芝居っ気がないと面白さが薄れるのも事実で、例えば第1楽章など劇的要素を押し出さず・淡々とした音楽性重視なのは分かるにしても・ちょっと面白味に欠けるようです。第2楽章は動的なリズムの面白さが十分ではありません。しかし、第4楽章は声楽処理の巧いバームの手堅さが生きています。派手なところはなく・聴き手の興奮を煽るようなところはまったくなく、じっくりとした音楽が胸に染み入ってきます。声楽陣は安定した出来です。


○1970年9月

ブルックナー:交響曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ソフィエンザール、英デッカ・スタジオ録音)

数あるベームの録音のなかでもベストの位置に入るひとつ。素晴らしいのはウィーン・フィルの響きが透明でみずみずしく・香り立つようで、特に弦がとても美しいと思います。音楽のすみずみまでニュアンス豊かで、ブルックナーの音楽の揺らぎのなかにフッと立ち上がる色合いの微妙な変化が十分に描かれています。これでなければブルックナーは単調になってしまいます。この交響曲は構成的には冗長な面があると思いますが、音楽の流れに身を任せていると実に心地良く、曲の長さを全く感じさせません。特にしっかりした足取りなかに感性の揺らぎを感じさせる第1・3楽章が素晴らしいと思いますが、ブルックナー独特のリズムが生き生きした第3・4楽章も魅力的です。


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