(戻る)

べームの録音 (1961−65年)


○1961年12月

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン・ダーレム、イエス・キリスト教会、DGスタジオ録音)

晩年の遅いテンポのべームとは違って・この頃のべームはテンポが早めです。旋律を簡潔に力強く歌い切り、引き締まった造形は壮年期のべームにふさわしい表現です。ベルリン・フィルの渋い硬質の音色、特に高弦の力強さは魅力的で、この時期のべームはベルリン・フィルがよく似合います。第1楽章の力強い表現は「厳しい」という形容がふさわしいと思います。第2楽章はあまり悲壮感を込めず・淡々と処理しているのも納得できます。第3楽章のホルンの響きは魅力的です。スタジオ録音のせいか・第4楽章はややまとまり過ぎで推進力に欠けるところがあるのが残念ですが、それでも立派な演奏です。


○1962年9月

モーツアルト:歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」序曲

フィルハーモニア管弦楽団
(ロンドン、EMIスタジオ全曲録音からの抜粋)

リズムの斬れのよい軽快な演奏です。オーケストラの編成がちょっと大き過ぎるような気がしますが、表情が思いの外に強くて聴いていてやや疲れます。ウィーン・フィルで聴きたいという気が痛切にしてきます。


○1962年11月4日ライヴ

モーツアルト:交響曲第41番「ジュピター」

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ニューヨーク・フィルの響きは重厚で、大編成のせいかちょっとタッチが太い感じがしますが、ベームが取る早めのテンポがキビキビとしていて、重く感じさせないのは、さすがです。第1楽章はリズムの推進力を感じさせる好演です。第2楽章は甘ったるいところを感じさせないのがベームらしいところで、どことなく厳しさが漂っています。第3〜4楽章も派手さを抑えて、決してリズムを逸ることない厳しい造形が好ましいと思います。


○1962年11月11日ライヴ

R.シュトラウス:交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」

ニューヨーク・フィルハーモニック
(ニューヨーク、カーネギー・ホール)

ニューヨーク・フィルの渋く重厚なタッチのせいか、全体的にタッチが重めですが、太い筆で一気に描いた書のような勢いの良さが身上です。スケールの大きさと、聴き手にグッと迫って来る響きの塊の重さがあります。この時期のベームの、早めのテンポで直線的に押して来る特徴がよくみられます。その一方で、ベームがドイツのオケでR.シュトラウスを振る時に感じる響きの透明感、特に木管の響きの抜けの良さなどの特徴は影を潜めてしますが、これは仕方のないところです。


○1963年10月29日ライヴ

ベートーヴェン:歌劇「フィデリオ」

クリスタ・ルートヴィッヒ(レオノーレ)、ヨゼフ・グラインドル(ロッコ)、
ジェームス・キング(フロレスタン)、グスタフ・ナイトリンガー(ピサロ)他
ベルリン・ドイツ・オペラ合唱団
ベルリン・ドイツ・オペラ管弦楽団
(東京、日生劇場)

日本の音楽史のなかでも特記される「事件」とも言える・ベーム初来日の記録ですが、さすがに素晴らしいと思います。オケの響きはちょっと荒削りな感じがしますが・引き締まっています。序曲はテンポが早く、リズムが明確で一気に核心に斬りこんでいくような直截的な力を感じさせるのは・壮年期のベームらしいと思います。表現に無駄がなくてシャープなのです。第2幕途中に挿入された「レオノーレ」序曲第3番はさらに熱気を感じさせます。密度の高い表現ですが・意外とテンポの変化が大きく、前半の抑えた表現から後半への聴き手の興奮を煽るような感じさえします。序曲第3番の爆発的な歓喜の表現のまま・フィナーレにどっとなだれ込んでいく感じです。第2幕フィナーレはドイツ人にとってこのオペラが特別な存在なのがよく伝わってくるようで、全員が憑かれたような歓喜の表現です。そのなかでベームも自然とテンポが早く・前のめりになっていくという感じです。歌手陣は当時の最高の顔ぶれで悪いはすはないですが、ルートヴィッヒのじっくりと落ち着いたレオノーレの歌唱は特に印象的です。ナイトリンガーのピサロの鋭く威厳のある歌唱、キングのフロレスタンの自由への叫びも心に響きます。第1幕での囚人の合唱も感動的です。


(戻る)