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バーンスタインの録音 (1988年)


○1988年6月ライヴ−1

ショスタコービッチ:交響曲第7番「レニングラード」

シカゴ交響楽団(シカゴ、オーケストラ・ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

構成複雑な大曲をダイナミックに見事にまとめた名演です。とくかく音楽に勢いがあって一気に聞かせます。第1楽章はボレロ風に高まっていく主題の精妙な表現から・クライマックスでの荒々しく・ジャズ的な感覚さえある激しい表現など聴きもの だと思います。シャープな造形とリズム処理が見事で・さすがにシカゴ響な合奏力は凄いと感嘆させられます。 このコンビはなかなか相性がいいように思います。熱くのめりこみ勝ちなバーンスタインの指揮ぶりをシカゴ響がその客観性で中和しているように思われます。しかし、全体がどこまでもヒューマンな響きなのはバーンスタインの人柄かも知れません。 第2楽章は叙情的な旋律がリズムに引き裂かれるような感覚。第3楽章ではシカゴ響の弦の冴えた響きが痛切なほどの哀しみを湛えているように感じられます。


○1988年6月ライヴー2

ショスタコービッチ:交響曲第1番

シカゴ交響楽団(シカゴ、オーケストラ・ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

リズム処理のうまさ・斬れのよさ、さすがシカゴ響だけに響きが透明で・造形がシャープで聞かせます。バーンスタインは全体のテンポを速めにとり・勢いで一気に持っていきます。シカゴ響の斬れの良さが際立ちます。一方でこの曲の不安なムードが聴き手に突き刺さってくることなく・飛んでしまっている感じがします。例えば第3楽章レントでの息の長い表現もサラリとした感触で美しい のですが、ちょっと表面的な感じがします。根本的にバーンスタインは楽観主義の人だなあと感じます。


○1988年9月ライヴ

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

バーンスタインらしい熱気を感じさせますが、この構成が複雑で・ごった煮みたいな交響曲のスコアをひっきり返してみせたような無邪気さがその持ち前と言えます。ダイナミックなところはダイナミックに・リズムはよく斬れており、交通整理したと言うよりは・この曲の構成的に弱いところもそのままさらけ出した感じで、聴きやすさという点では若干疑問があります。第2楽章・第4楽章が長めに感じられるのはそのせいかも知れません。あるいは第3楽章など感触がサラリとしていて・のめり込みが少ないのも・物足りなく感じられます。刺激的な金管の響き、荒々しいリズムでさえ調整音楽の枠のなかに収まっている感じで、それを逸脱しようとするような感性のきしみは感じられないようです。


○1988年9月8日ライヴ−1

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ルツェルン、クンストハウス、ルツェルン音楽祭)

ゆったりしたテンポで、スケールが大きい演奏です。リズムも重めで・ドイツ的な重厚さを意識した感じで、オペラティック な興奮を呼び起こすと言うよりは・交響詩的な密度を感じさせます。導入部におけるテンポは特に遅い感じですが・緊張感があり、展開部においてテンポを上げていく設計も自然に感じられます。


○1988年9月8日ライヴー2

バーンスタイン:独奏フルートと室内オーケストラのための「ハリル」

ヴィルフガング・シュルツ(フルート)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ルツェルン、クンストハウス、ルツェルン音楽祭)

フルート奏者であり・戦争で亡くなったイスラエルの青年を追悼した曲だそうです。 フルート独奏の揺れるような旋律を主体に瞑想するような雰囲気を持っています。不協和音を織り交ぜて現代音楽的な要素を持ちつつも・調性音楽の範囲からは逸脱はしておらず・保守的な作品なので、ウィーン・フィルにも入りやすかっただろうと思います。


○1988年9月8日ライヴー3

ブラームス:交響曲第4番

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ルツェルン、クンストハウス、ルツェルン音楽祭)

曲に主情的にのめり込んで・フォルムを崩す晩年のバーンスタインの特徴がよく出ています。バーンスタインならではの表現ともいえますが、かなり問題が多い演奏だと思います。47分を越える演奏時間にもそれが現れています。第1楽章からテンポが遅いのですが・テンポ自体が問題なのではなく・テンポがフラフラと揺れて・曲想を十分つかみ切れていない印象がつきまといます。ウィーン・フィルの高弦がきつくて・キンキンするのも気になります。第1楽章終結部など・もうこれで曲が終わるのかと思うような大仰な引っ張り方で、これがもう第1楽章という位置付けを逸脱しています。第2楽章も流れが粘って・テンポが揺れて・情感に溺れ過ぎです。流れが停滞して・時にまるでマーラーのアダージェットかと思うような響きが出現して・とてもブラームスには聴こえません。第3楽章は比較的まともですが、第4楽章はテンポが伸縮して・パッサカリアの形式感などまるで無視で、情感に溺れています。


○1988年9月25日ライヴ

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール)

バーンスタインらしい熱いのめりこみが感じられる演奏で・特に両端楽章は緊張感ある熱い出来だと思いますが、全曲聴き終わってみると意外と古典的にまとまっているようにも感じられます。こういう印象になるのは中間楽章・特に第3楽章がかなり抑えた感じであることから来ていると思われます。第3楽章はバーンスタインらしくない感じで・醒めた客観的な筆致で淡々と進みます。弱音の使い方・旋律の息も持ち方で物足りない感じが否めませんが、全曲のなかで第3楽章が占める重さは結構なもので・転換点としての要の位置でもあり、通して聴くと・バランスのせいで全体がこじんまりとまとまる印象があるようです。これはバーンスタインの設計かも知れませんが、両端楽章が熱いだけにちょっと意外な感じがします。第1楽章は早めのリズムの刻みが造型をぎゅっと引き締めていて凝縮感があります。最終楽章はテンポの緩急をつけてスケル感がある仕上がりになっています。


○1988年10月3日ライヴ

マーラー:歌曲集「亡き子をしのぶ歌」

トーマス・ハンプソン(バリトン)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ウィーン、ウィーン楽友協会大ホール、独グラモフォン・ライヴ録音)

ハンプソンの歌唱は言葉をじっくり選ぶ感じで・淡々とした抑えた表現が好ましいと思います。バーンスタインの伴奏も同様で・なかなか手堅いと思います。


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