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アバドの録音 (1998年)


○1998年2月28日ライヴ

マーラー:歌曲集「不思議な子供の角笛」(「原光」を含む全13曲)

アンネ・ゾフィー・フォン・オッター(メゾ・ソプラノ独唱)
マティアス・ゲルネ(バリトン独唱)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

オッターもゲルネも声質が豊穣で、とてもよく響きます。おかげで歌唱が耳に心地良いですが、全体的に牧歌的、メルヒェン的に響きます。そういう要素がこの歌曲集にないわけではないですが、曲のなかのアイロニカルな要素は消えて聴こえます。この点ではアバドの指揮も、歌手に無難に付けているという感じで、いささか物足りない。ベルリン・フィルの響きも豊穣に過ぎて、歌手の歌に対して突き刺さって来るところがあまりありません。ちょっと期待はずれの演奏でありました。オッターが歌い「無駄な骨折り」、あるいは「浮世の生活」など、ニュアンス豊かで世話物歌曲としての面白さで聴かせますが、その裏にある皮肉な味わいを読まねば、マーラ―にならないのではないでしょうか。ゲルネは恰幅の良い歌唱ですが、「死んだ鼓手」はもっと虚無的な要素を表現していないと、掘り下げ不足で物足りません。


○1998年2月28日ライヴー2

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番

アルフレート・ブレンデル(ピアノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これは文句がまったく付けようのない安定した名演です。まずブレンデルのピアノは打鍵の強さ、渋く輝く音色で、タッチが煌めくように美しく、線が太い明晰な音楽を作り上げています。ソロとオケががっぷり四つに組んだ理想的な演奏だと思います。アバドのサポートは、第1楽章がスケール大きく、しかも規格正しいフォルムを感じさせます。決して激することなく、しっかりした足取りは、まことに王者の風格と云うべきです。内省的な第2楽章では、ブレンデルの息の長いソロが光ります。第3楽章も手綱を引き氏締めて、堂々たるスケールです。ベルリン・フィルはドイツのオケらしい重厚な響きがとても魅力的です。


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