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アバドの録音 (1995年)


○1995年2月ライヴ

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲

五嶋みどり(ヴァイオリン独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニーホール)

構えの大きいグラマラスな演奏になっています。五嶋みどりのヴァイオリンは高音がやや金属音なのは難ですが・中低音はふくよかで、テクニックは十分で活気のあるソロを聞かせます。特に第1楽章は華やかで自由奔放な感じで見事です。しかし、第2楽章でのしみじみとした表現・深みにおいてはいまひとつと言ったところです。アバドの伴奏もその線で行っているようですが、聴いていてソリストと若干息が合っていないような感じを受けました。ソロ抜きの場面になるとオケが待っていましたとばかりに大音量で歌い上げるという感じで、ソリストを包み込むというよりは張り合う感じに聞こえるのは、協奏曲のサポートがうまいアバドにしてはちょっと意外でした。したがって、華やかでスケールの大きい演奏なのですが、細やかな情感には不足するところがあって、聴き終わっていまひとつ満足感に欠けるところがあります。


○1995年5月9日ライヴ

マーラー:交響曲第5番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(アムステルダム、アムステルダム・コンセルトヘボウ楽堂、マーラー・フェスト)

ベルリン・フィルの響きが豊穣で・描線が太めの演奏に仕上がっています。アバドが得意にしており・よく取り上げる曲でもあり・オケの腕に申し分があるはずもなく・確かに全体によくまとまってはいるのですが、表現が一定の枠に収まり・居心地コチの良い椅子に座った安全運転のもの足りなさを感じます。細部の表現は細やかですが・表現に斬れが乏しく・甘めのロマンティックに傾いており、マーラーの感性の揺らぎが感じ取りにくい印象です。ダイナミックな絵巻物にはなっているのですが、特に第2楽章以降にその不満を強く感じます。第4楽章アダージェットなどはムード音楽のような感じがします。アバドのマーラーで・こういう演奏を聴くのはちょっと残念です。


○1995年5月12日ライヴ

マーラー:交響曲第9番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(アムステルダム、アムステルダム・コンセルトヘボウ楽堂、マーラー・フェスト)

前半は9日の第5番の印象に近くて・描線が太く・表現がロマンティックに傾いている感じですが、曲の性格にもよるのか・さほど不満は感じませんが、アバドとしてはまあ普通の出来という感じです。しかし、後半はエンジンが点火したのか・別人が振っているのかと思うほど・表現が変化します。リズムが鋭く打ち込まれて・見違えるほどに表現の彫りが深くなります。第3楽章ロンド・ブルレスケの激しいリズム処理、第4楽章終盤など緊張がピーンと張り詰めた高現の響きなど聴き物で、さすがアバドと思わせる鮮烈な出来です。


○1995年8月9日ライヴ

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番

マウリツィオ・ポリー二(ピアノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ソリストと指揮者の息が合った緊迫感に満ちた名演です。アバドのサポートのうまさが際立ちます。冒頭の金管の響きからして・渋くたっぷりとした量感があり、高弦の力強い硬質の響きといい・低弦のもたらす重量感といい、ブラームスにぴったりのイメージです。特に両端楽章は引き締まった造形とたたみかけるテンポがポリー二との掛け合いの緊張感を高めています。ポリー二のピアノはもちろんテクニックは素晴らしいものですが、硬質で冷たい響きがベルリン・フィルのドイツ的な響きと比較して量感で第2楽章のゆっくりした場面などで多少違和感を感じないこともありませんが、聴いているうちにそれも気にならなくなります。


○1995年8月29日ライヴ

ヒンデミット:交響曲「画家マチス」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ベルリン・フィルの弦が艶やかで・低弦がよく効いて重厚な響きで、旋律が深い息遣いを以って歌われます。そのせいか前衛的な要素も持つ曲ですが、全体に重厚なゴチック的な印象にも感じられるのが興味深いところです。アバドのリズム処理は巧みで、均整が良く取れた演奏に仕上がっています。特に第1楽章「天使の合奏」はリズムの斬れが良くて、 清冽なイメージがよく表現されていて見事な出来です。


〇1995年11月15日ライヴ−1

モーツアルト:ピアノ協奏曲第23番

マリア・ジョアン・ピリス(ピアノ独奏)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

ピリスの音色は暖かく、音が粒立っているので、聴いていて心和みます。音楽する心があふれています。アバドどの共演は、とても息が合っています。力むところのない、自然な表現です。心持ちゆったりしたテンポで、旋律を豊かに宇わせています。第1楽章がたっぷりした音楽で素晴らしいですが、第3楽章も勢いよく弾きたがるピアニストが多いのに、ピリスは落ち着いた足取りで聴かせるのも、光ります。


〇1995年11月15日ライヴ−2

ヒンデミット:組曲「気高い幻想」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

モーツアルトの協奏曲の後に、ヒンデミットを持ってくるとは如何にもアバドらしいところです。リズム主体の曲ですが、アバドの演奏は緊張感が持続して、特に終曲はベルリン・フィルの重量感が圧倒的で、聞かせます。


〇1995年11月15日ライヴ−3

ヒンデミット:ウェーバーの主題による交響的変容

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール)

これもリズム主体でオーケストラの動的表現を追求した曲ですが、アバドはリズム処理が巧みで、最後まで緊張感が途切れず、フィナーレまで一気に突き進みます。ベルリン・フィルのリズムは、鋭角的に迫ると云うよりも、重量感を以てズシンと聴き手の腹に来る感じで、迫力があります。


○1995年12月−1

チャイコフスキー:スラヴ行進曲

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、DGスタジオ録音)

テンポをゆったりとって、その色彩感とスケールの大きさは見事で、交響詩的表現になっていると言えるかも知れません。


○1995年12月ー2

チャイコフスキー:大序曲「1812年」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、ベルリン・フィルハーモニー・ホール、DGスタジオ録音)

音の活劇とでも云うべきこの曲を、大砲などの音響効果も加えつつ、アバドの劇的設計力がただ派手なものにしていないところに感心させられます。ダイナミックなオケの音絵巻が楽しめます。


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