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アバドの録音 (1991年)


○1991年1月25日ライヴ

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

ヴィクトリア・ムローヴァ(ヴァイオリン)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(東京、サントリー・ホール)

まずムローヴァのバイオリン・ソロが素晴らしく、活きが良い。やや線が細い感じはしますが、テクニックの斬れがあり・艶のある音色で魅了します。旋律の歌いまわしにしなやかさと張りがあり、自由奔放ななかにも女性らしい繊細さもあり 、実に見事だと思います。特に第1楽章はアバドとの息もぴったり合って素晴らしい出来になりました。暗めの色調でメランコリックなブラームスも悪くはありませんが、このような明るい太陽のもとで澄み切った青空を見るようなブラームスもまた別の味わいがあります。アバドのサポートは見事だと思います。ベルリン・フィルの音色は重くなく・透明感があって、ムローヴァの天駆けるようなソロをぴったり支えています。第2楽章はじっくりと旋律を歌い上げて、しみじみとした味わいがあります。第3楽章は厳しい表現でスケール大きく締めます。


○1991年5月1日ライヴ−1

モーツアルト:歌劇「ドン・ジョヴァンニ」序曲、アリア「ひどいですって?〜ああ、言わないで、愛しい人」

チェリル・スチューダー(ソプラノ独唱)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(プラハ、スメタナ・ホール、ヨーロッパ・コンサート)

ベルリン・フィルのヨーロッパ・コンサートの第1回目。1981年はモーツアルト没後200年でもあり、プログラムは全編モーツアルトの作品が並んでいます。冒頭の「ドン・ジョヴァンニ」序曲は、出だしがベルリン・フィルの低音がよく効いて、気合いの入ったなかなかの好演です。中間部のアレグロの軽妙さもよく対照だ衝いて、スケールの大きな演奏に仕上がりました。第2幕のドンナ・アンナのアリア は、スチューダーの独唱。まだ喉が出来上がっていない感じが若干あり、美しい声で整った歌唱ですが、コンサート・アリアみたいな感じで、あまりオペラティックな感じがしないようです。もう少し劇的振幅が欲しいところです。


○1991年5月1日ライヴ−2

モーツアルト:交響曲第29番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(プラハ、スメタナ・ホール、ヨーロッパ・コンサート)

ベルリン・フィルの響きが重厚でリズムが若干重めなので、第1楽章アレグロ・モデラートは悪くはないですが、やや重めの印象がします、これはもうちょっとテンポが速めの方が良かったかも。第2楽章アンダンテはやや遅めのテンポでゆったりした息の深い旋律の流れが好ましく感じられます。後半2楽章は、リズムが斬れた感じになって音楽に活気が出て来て、ベルリン・フィルの持ち味が良く出て、スケールが大きめの、なかなか良い出来になりました。


○1991年5月1日ライヴ−3

モーツアルト:コンサート・アリア「私があなたを忘れるですって?〜心配しないで」

チェリル・スチューダー(ソプラノ独唱)
ブルーノ・カニ―ノ(ピアノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(プラハ、スメタナ・ホール、ヨーロッパ・コンサート)

ピアノ付きのコンサート・アリアです。スチューダーは前半のドンナ・アンナのアリアの時より、明らかにコンディションが良くて高音が伸びが改善し、表現の幅も大きくなって、美しい歌唱に仕上がりました。カニ―ノのピアノは粒が揃った響きが好ましく、この曲だけの出演はもったいない感じです。


○1991年5月1日ライヴ−4

モーツアルト:第35番「ハフナー」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(プラハ、スメタナ・ホール、ヨーロッパ・コンサート)

ベルリン・フィルの持ち味が全開した感じで、活気があるスケールの大きい、ちょっと大きすぎるくらいの演奏に仕上がりました。活気があるとは云え、後半2楽章 はドライヴがやや掛かり過ぎ、テンポをもうちょっと遅くして落ち着いた演奏の方がモーツアルトにはふさわしいと思いますが、この日のプロはベルリン・フィルにはちょっとエネルギーが余った感があ るのかも。しかし、重要な響きながら恰幅が良い・如何にも交響曲らしい壮麗な構えはなかなか見事なもので、これはベルリン・フィルならではです。出来の良いのは、テンポがゆったりした第2楽章であると思います。


○1991年6月18日〜20日

モーツアルト:交響曲第35番「ハフナー」

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、カンマームジーク・ザール、ソニー・クラシカル・スタジオ録音)

ベルリン・フィルの豊穣な響きを生かして・グラマラスなモーツアルトに仕上がっています。したがって、リズムはちょっと重めで・もう少し生き生きしたところを求めたい感じもしますが、表情は細部まで柔らかく優雅です。この辺のオケの色彩や表情はカラヤン時代の残渣を濃厚に感じさせるところです。第1楽章でも威圧的な感じはまったくなく、おっとりした趣があります。第2楽章ではもう少し弱音を生かして音楽に軽さを出すことができれば平坦な印象を避けられたかなという 気がします。


○1991年8月29日ライヴー1

ブラームス:ピアノ協奏曲第2番

アルフレート・ブレンデル(ピアノ)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

ベルリン・フィルについては同日の第4交響曲ほどではないですが、弦の響きがやや粗く感じられ、ベルリン・フィルの持ち味である艶のある響きでないのが気になるところです。カラヤンからアバドへの過渡期の一時的現象かも知れません。アバドはコンチェルトのうまい指揮者なので無難につけていますが 、第3楽章などロマンティックな憂いの表現ではやはりベルリン・フィルを十分生かしきっていない印象を受けます。しっとりした味わいにちょっと欠ける感じです。ブレンデルのピアノはこれは申し分ないと思います。余裕をもって音楽を作っており、音のひとつひとつが練られているのです。第1楽章では早めのテンポで 、両者ががっぷり組んだ熱気のある演奏が楽しめます。


○1991年8月29日ライヴー2

ブラームス:交響曲第4番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ザルツブルク、ザルツブルク祝祭大劇場)

特に第1〜2楽章においてはテンポは早く・熱気は感じさせますが、やや力みがあって、ベルリン・フィルにしては弦が荒れ気味で刺激的なところがあります。第2・3楽章はアタックが強く、表現がゴツゴツした感じです。これを熱気と言えばそうも言えますが、もう少し表現に洗練が欲しいと思います。セカセカした感じで表現に余裕がなく、今ひとつ音楽に 浸りきれないところがあってアバドらしくない感じです。ブラームスの古典的なフォルムにアバドの情熱が納まり切っていないようです。第4番はつくづく難しい曲だと思います。


○1991年12月31日ライヴー1

ベートーヴェン:劇付随音楽「エグモント」、
コンサート・アリア「ああ、裏切り者よ」

チェリル・スチューダー(ソプラノ独唱)
ブルーノ・ガンツ(語り)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、シャウシュピール・ハウス)

91年ジルベスター・コンサート(ベートーヴェン・ガラ)は、フィルハーモニー・ホールが改装期間に入った為、シャウシュピール・ハウスで行われました。「エグモント」はガンツの張りのある毅然とした語りに乗って、アバドとベルリン・フィルの演奏もキリッと引き締まった勢いのある演奏に仕上がっています。まず序曲は、冒頭部はやや気合いが弱い感じがしましたが、曲が進むにつれてテンポが早くなり、音楽が高揚していきます。アリア「太鼓は響く」でのスチューダーの独唱は、ドラマティッくで線の太い歌唱が素晴らしいと思います。全曲を通じて、若々しさが漲って、フィナーレに向かって一気に突き進む熱さを感じさせます。東西ドイツ統一(90年10月3日)の興奮醒めやらぬ時期の演奏だということもあると思います。一方、スチューダーはコンサート・アリア「ああ、裏切り者よ」でも重みのある輝かしい声を生かして劇的な歌唱を聴かせます。アバドの伴奏も息の合ったところを聴かせます。


○1991年12月31日ライヴー2

ベートーヴェン:レオノーレ序曲第3番

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、シャウシュピール・ハウス)

冒頭部はやや抑えた感じがしますが、途中からテンポが次第に早くなり、表情がさえてきて、テンションが急激に高まって行きます。劇的設計と云うよりは、自然にそうなったという感じです。まあベートーヴェンのこの曲ならば、当時のドイツ人ならどうしても熱くなってしまうでしょう。全体的にはテンポ早めで、勢いがある演奏に仕上がりました。


○1991年12月31日ライヴー3

ベートーヴェン:合唱幻想曲

エフゲニー・キーシン(ピアノ独奏)
ベルリン・リアス合唱団
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(ベルリン、シャウシュピール・ハウス)

若干テンポは速め、ベルリン・フィルの響きは重厚で渋めのドイツ的な響きですが、オケの表情は冴えており、演奏が聴き応えがします。キーシンのピアノは線が太い響きですが、もう少し響きに芯が欲しい感じがします。


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